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008


  

 アルスがジランダを見つけたのは、学校構内を10分ほどうろついた頃のことだった。
 
  
 構内は広く、校舎の中ではないだろうと踏んでいたため(ドラゴンが単独で校舎を浮遊していたら大騒ぎになる。ドラゴンは危険動物と称されているのだから!)、校舎をなぞるように外をぐるっとうろついていたのだが、ベビードラゴンは身が小さく、姿を隠しやすい。仕方がなしにシラミ潰しに探してうろうろ。

 手探り状態で探していたアルスが演習場裏に足を運んだ時、そろそろ後日に回そうかと思った矢先、大きな【ドラ・マナ】を感じたため、一点を目指して早足。

 演習場の裏で目の当たりにしたのは、懸命に自分の【ドラ・マナ】を放っているジランダの姿だった。
 
 此処、演習場の裏にも演習場と同じように、規模は小さいながらも魔力を測る水晶柱が設置されている。ジランダはそこで自分の魔力を測定しているようだった。ジランダ自身の魔力は水晶柱が判断する限り青、合格ラインは赤以上なため、なかなかの魔力を誇っていると思われる。
 しかし満足していないのか、肩を落とし、ジランダは大きく溜息をついていた。
 
  
「ジランダ、練習してるのか?」

『アルスさま?』


 弾かれたように此方を見てくるグレイドラゴンに、「ちょっと休憩しようぜ」と、はにかむのはその直後のことだった。
 
  
 
「これ、俺からの差し入れ。その様子じゃ何も食ってないんだろ?」
 
 アルスは持参していた新しいリンゴを袖で磨くと、ジランダに差し出す。軽く驚きつつも、『有り難く頂きます』ジランダは表情を和らげて頭を下げてきた。
 こうして二人は演習場の校舎の壁に背を預けるような形で、リンゴをシャリシャリ。二つの咀嚼する音が演習場裏を満たした。

「ジランダはさ、いつもこうやって練習してるのか? 昼休み、あんまベルトルと一緒にいるところ見ないけど」

 シャリ、アルスは芯が見え始めたリンゴを齧りながら質問。

『はい、こうやって練習を。ベルトルさまには内密にしているのですが…』
 
 シャリ、ジランダは瑞々しいリンゴを頬張りながら返答。
 
 ふーんと相槌を打つアルスは「えらいな」、目尻を下げて褒めを口にした。
 自分だったら昼休みは有意義に遊んでる。得意気に話すアルスに一笑し、ジランダはリンゴに視線を戻す。


『ですが…、ちっとも成果が上がらなくて。今回はベルトルさまにご迷惑まで…、自己嫌悪です』

「ンー、あいつの【マナ】を拒絶しちまってるそうだもんな。ジランダって」

『はい、今までこんなことなかったのに。ウッパさまの特別授業を憶えていますか? アルスさまとラージャが【マカ】を使いこなせたあの日です』

 
 憶えてるも何もあの授業はとんでも授業だった。

 パートナードラゴンは命の危機に曝されるわ。こっちはこっちでモジュを掴まえようと奮闘、結局食獣植物と戦闘してしまうわ。踏んだり蹴ったりな授業だったが、あの授業のおかげでアルスはラージャに【マナ】を送ることに成功したのである。
 良き思い出なのか、悪しき思い出なのか、今は区別がつかない。半々な気持ちだ。


『あの日を境に、どうも私の中の【ドラ・マナ】が不安定に…、思うような【マカ】が放てず終わってしまって。
せっかく、ベルトルさまに改めてパートナードラゴンとして指名されたのに。ラージャと比較すると、私の魔力なんてちっぽけです。それでもベルトルさまは私を選んでくれて…、見合うようなドラゴンにならないといけないのに。何一つ応えられなくて』

「ベルトルは魔法技術が高いからな」
 

 プライドと傲慢の高さもピカイチだ!
 心中で毒づき、「俺と一緒だな」ニッとジランダを見下ろして笑うと、アルスは胡坐を掻いて空を仰いだ。




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