絶好調、絶不調、良好ペア
▽職業278 ドラゴン使い
ドラゴン使いは魔法使いの系統に属し、魔法技術とドラゴン調教能力の両方を必要とする最も難易度が高く危険を伴う職である。
優れた魔法技術は勿論のこと、ドラゴンとの心の調和が何より重視されている。片方の能力が優れているだけではドラゴン使いは成り立たない。ドラゴンに見切られる人間はこの職に不向きであろう。
故に卵は多いものの、正式なドラゴン使いになれるのは一握りと言われている。また一人前と認められるまで長い月日を要する職業である。
* *
―ウェレット王国―
バウホット学校の特別演習場(特別魔法使いクラス以外立ち入り禁止)。
等間隔に並べられた水晶柱。まるで床を突き破って生えているように見えるそれは半透明色を放っている。無機質で無愛想に佇んでいる水晶柱。尖端は刺々しい空気を取り巻いている。
周囲に被害が及ばぬよう魔法を吸収するために特別設置されたそれに各々狙いを定め、「開始!」合図と共に演習場にいたクラス達は呪文を一斉に唱え始める。といっても、特別演習場は広いながらも、入れる人数が限られているため、一斉に唱える呪文の数は三つばかしほど。
ただ今、特別演習場は“ドラゴン使いクラス”が使っている真っ最中だった。
各々人間が持ち前の【マナ】と呼ばれる魔力を練ってパートナードラゴンに送り込み始める。パートナードラゴンは、自分の持っている【ドラ・マナ】と混和、体内に溜めた魔力を【マカ】に変えて水晶柱に向かって攻撃を放つ。
ひとつは眩い雷、ひとつは灼熱の炎、ひとつは冷気帯びた氷。
それぞれ水晶柱に放ったため、水晶柱は左右に忙しなく微動。
半透明色が一斉に変化を遂げた。魔力の度合いによって水晶柱の色は変化する。最高は漆黒なのだが、雷を受けた水晶柱だけがその色に変化、他の二つは赤と黄に表情を変えた。
見事に水晶柱を最高ランクまでに変化させたのは、少し前まで【マカ】を使えなかったアルス・ウリダーケだった。
パートナードラゴンは魔力の高い漆黒ドラゴンのラージャ。
少し前まで【マカ】を使えなかったとは思えぬ高技術の【マカ】を放つことに成功したラージャは、『さっすが俺ちゃまだ!』まずは自画自賛。鼻高々に胸を張った。次いでパートナーに振り返ってやったじゃないかと褒めを口にする。
『アッルスー! 随分とマカが上手く使えるように…、アルス?』
折角の喜びも束の間、パートナーのアルスはその場に座り込んでしまった。一つに結っている夕陽色の髪が力なく垂れている。
「はぁっ…、はぁーあ…無理…、も、ダメだ。眩暈がする」
はぁーあ、溜息をついてアルスは片膝に額を乗せた。
『おいアルス、大丈夫かよ』まだ三発目だぞ、ラージャはアルスの前に立ち、心配の念を抱きながら顔を覗き込む。少し休めば大丈夫だと力なく笑うアルスは、参ったと溜息をついた。今は立ち上がる余力も残っていない。
顔を顰めるアルスに声を掛けたのは担任のギュナッシュ。
苦笑を漏らしながら、「アルスくんは自分のマナの配分が分かってないね」助言。体に影響はないと目尻を下げた。
「いつも全力でラージャにマナを送っていたらスタミナが持たないよ、アルスくん。今のままじゃ最大でも三回までしかマカを練れない。魔法技術がまだまだかな? しかし凄い汗だね。保健室に行くかい?」
「だ、大丈夫です。少し休んだら…、治るので」
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