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眠れよ、憂鬱



 ベルトル・ゲゼルはウェレット王国に住むゲゼル家の長男坊だった。
 事情により彼はこの国独特の法律、“クジ引きによる職業決め”を逃れていた。既に彼は“ドラゴン使い”になると約束されたレールを走り、今日を生きている。


 彼は深い海底の放つブルーの髪と瞳を持っていた。
 

 好敵手(ライバル)と言えるかどうか分からないが、まったくそりの合わないクラスメートのひとりと対照的な寒色を持ち前としている。
 一言で言えば非常に性格難、取っ付き難く、プライドも高く、高飛車口調。お友達が多いタイプかと問われれば、誰の目から見てもそれは否だと分かる性格の持ち主だろう。
 

 彼は今、真夜中の自室を離れ、ドラゴンの檻が置いてある部屋へと赴いている。
 

 家柄の関係上、洋館の各々ドラゴン部屋には沢山のドラゴンが収納されている。ベルトルは自分専用に提供されたドラゴン部屋に入っていた。将来ドラゴンが増えるだろうと広いスペースがあるその部屋に四隅に、ポツンと台。
 上には長方形型の鉄檻。凶暴なドラゴンを収めるには十分すぎる強度の檻だった。物寂しい部屋の四隅につくねんと小さな檻、収納されているドラゴンはさぞ寂しく心寒い思いをしているに違いない。
 
 ベルトルは神妙な顔で檻を覗き込んだ。そこには身を小さくして眠るパートナードラゴンの姿。
 グレイッシュな鱗を持つベビードラゴンを見つめ、思案、そっと手を伸ばし鍵の掛かっていない檻を開けた。起こさぬよう気配を消しつつも、ぎこちない手付きではあるがパートナーの体に触れ、ゆっくりと体を撫でてみる。未だ慣れぬ行為、パートナーが起きている間は殆どしたことがない。
 最近の、夜な夜なの行為。習慣になりそうだとベルトルは心中で溜息をついた。

 分かっている、起きている時にしてやる方が効果的だと。
 きっと体いっぱいを使って喜んでくれるに違いない。今まで甘やかしたことなどなかったのだから。それでも、今はまだ…。
 
 

「―――…父の教えが正しい、そう思っていたが、何故だろうな。“あいつ等”のやり取りを見ている方が、よっぽど正しいと思える。厳しさと、強さだけがすべてではないよな」

 

 お前にどれほど手厳しいことを言ってきただろう。その度、辛い思いをさせてきたのでは。
 ドラゴンに感情と理性があると教え、パートナーの在り方を説き自分と対立したクラスメートの言の葉を、見せ付けてくれた絆を、彼等の揺るぎない強さを、思い出す。

 自分でさえ生み出すことの出来なかった、彼等の強い【マカ】、あれは絆の強さが具体的な形になったと思っている。

 痛感した、自分達の、否、自分の敗北と間違いを。

 

「ジランダ。お前と俺も、いつか…あいつ等のように。悪いな、今はまだ父の教えを背ける自信がないんだ。―…お前を甘やかすことに畏怖の念を抱いている」



 だから今はこうして…。
 
 ベルトルはパートナードラゴンの寝顔を見つめ、起こさぬよう何度も何度も体を撫でた。心中で何度も詫びながら。




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