011
午後。
いつもより少し早めに仕事を切り上げた俺は、脇目も振らず帰宅。
「おかえり」リビングキッチンからひょっこり顔を出した菜月に挨拶されて、「おう」俺はただいまと返事する。ごくごく自然になっているこのやり取りに心があったまるのは、幸せだって俺が思っているからだろう。俺は洗い物をしている菜月に、弁当の礼を告げてランチボックスを手渡す。
受け取る菜月は、「なるべく毎日作るよ」そっちの方が経済的だろ? と照れ笑い。
断然そっちの方が助かるから俺はそうしてくれと頼んだ。
地味に飯代が掛かるのだと相手に伝えると、「何処の世界も一緒だよね」食費は地味に掛かるものだと世間話に加担してくれる。「ほんとになぁ」俺の給料、地味に安いし、肩を竦めてテーブルに着く。
『おっかえりだっちゅーの! ブラコン兄!』
菜月の影から小鬼が飛び出してくる。
最初こそ警戒心を抱いていた魔物だが小鬼は小生意気なだけで害はない。魔界人嫌いな俺でも普通に会話できる。
「おー、小鬼は今日も元気そうだな。良い子にしてたか?」
『失礼! カゲっぴ、まあいにち良い子にしてるっちゅーの!』
ぶうぶう膨れ面を作っている赤小鬼に、「アイス作りを手伝ってもらっていたんだ」菜月が目じりを下げる。
「アイス!」俺が食いたがっていたデザートに頷き、ちゃんと固まれば食べられると教えてくれた。今日の夜には食べられるそうな。なんだよ、てめぇ、親父の一件以来、本当に性格に棘がなくなったじゃねえか。
笑みを零していると、『ねえねえ』小鬼が声を掛けてきた。「なんだ?」視線を下ろせば、小鬼が俺に聞いてくる。ブラコン兄ってどれくらい強いの? と。
唐突な質問だな。
まあ、取り敢えず菜月よりかは強いと思うぞ。そう答えると、『じゃあ力持ち?』更なる質問が飛んできた。
『怖がり菜月。今日、重たそうなバケツの水をひっくり返していたから…、兄姉のお前も非力と思ったんだけど。違うっちゅーの?』
「非力じゃねえよ。これでも長い槍を振り回しているんだからな。バケツをひっくり返すのは菜月の身体能力に問題ありだ」
『ほんとぉ?』訝しげな眼を向けてくるもんだから、証明してやるために洗い物を済ませ、タオルで手を拭いている菜月の脇に手を入れて持ち上げる。
突然持ち上げられた菜月は、「何するの!」頓狂な悲鳴を上げて俺を見下ろしてくる。「証明してるんだって」俺は自分が非力じゃないってところを証明してるのだと説明。小鬼にどうだと視線を流せば、おぉおっと拍手を送られた。よしよし、非力疑惑は解消されたな。
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