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無邪気に笑ってくれる君へ


 
 
 * *

 
 
「―――…おい朔月。てめぇが前にくれた人間界の道具、見事に使えねぇのばっかだったぞ! てめぇ、俺に日用品だってほざいたよな? けど菜月に見せても、『日用品としてはあまり…』とか言いやがったんだが!」


 後日。
 出勤した俺は開口一番に文句垂れる。文句を受けた朔月はやっと分かったかとばかりに口角をつり上げてきた。
 曰く、わざとあまり使えない道具を手渡してきたらしい。苦労して入手した人間界の道具を易々手渡すわけないじゃないか、朔月はさも当たり前のようにのたまってくる。……こいつ、ぶっ飛ばしてやろうか。

 不機嫌になる俺に、「だから菜月くんが必要だったわけだ」使えるかどうかはそれなりの知識人が必要。まさしく菜月がそれに当てはまる人物だったとか。
 話題づくりにはぴったりだったろ? したり顔を作る朔月に俺は舌打ちを打った。おかげさまで部屋もローブも悲惨なことになっちまったよ。まあ、菜月と話す契機にはなったけどさ。不貞腐れながら俺は墨汁話を朔月にしてやる。阿呆過ぎると無二の親友は大笑いしてくれやがった。るっせぇ、阿呆なことをしたのは俺も承知だよ。
 相当朔月にはツボだったのか、仕事中も俺の顔を見る度に笑ってきやがった。どんだけ笑うって話だ。
 
 昼食時間になっても笑っているもんだから、取り敢えず一発拳骨をかますことにする。
 「悪いわるい」朔月は笑いすぎたことを詫びてきた。まーじ今更って思うのは俺の器の問題か? 眉根をつり上げる俺に朔月は、ごめんごめんと悪びれた様子もなく片手を出しながら鞄から弁当を取り出す。
 おっと婚約者さまからの愛妻弁当ですかね? 仕返しがてらに言うと、「残念」母上のお手製弁当でした、朔月は両手を挙げておどけた。

「毎日買い食いすると食費も馬鹿にならないからな。お前は?」

「俺は聖界の経済を潤すために買い食いだよ。朔月は此処で食うんだろ? 俺もサンドウィッチを買って戻ってくっから」

 鞄を開けて俺は財布を探し始める。
 俺の隣で早々とランチボックスを開ける朔月はオーケーと肩を竦めてきた。

「そういや今日は聖保安部隊との話し合いの日だって言ってたな。早退するんだろ?」

「ああ。何事もなかったら俺達が今までどおり、菜月を引き取…ん? あれ? なんだこれ」
 
 身に覚えのねぇランチボックスが鞄の中に入っていた。
 
 「今日は弁当だっけな」時たま、遅番だからという理由で柚蘭の奴が作ってくれたりするんだが…、あいつ、今日は俺と同じ早番だったような。
 ランチボックスと睨めっこする俺に、朔月は良かったじゃないかと肩を叩いてくる。財布が軽くならずに済んだじゃないか、おけらけらとおどけてくる親友にそれもそうだと笑った。内心では柚蘭に後で礼を言おうと思いつつ、ボックスの蓋を開ける。
 メインはサンドウィッチ、だが俺は具材に瞠目する。ボックスを覗き込んできた朔月は、「カツサンドじゃないか!」贅沢だなお前と声を上げた。

「あ。こっちはジャムサンドか? うっわぁー、玉子焼きってヤツも入ってる。って、これ人間界の料理じゃないか」

 ランチボックスを入れてくれた犯人を察し、俺は一変して破顔。
 「食いたいって言ってたから」作ってくれたのかよっ…、妙に感動して胸がいっぱいになるのはなんでだろう。「菜月くんと」上手くいき始めてるみたいじゃないか、俺の心情を察した朔月が綻んでくる。俺は同じ表情を作って、「自慢の弟だ」今頃柚蘭も喜び満ちている筈だと返答。

「最近さ。菜月と徐々にだけど、腹割って話せるようになってるんだ。なんか、上手くいき過ぎて怖いくれぇだ」

「バッカ。良いことに何怖じてるんだよ。お前、苦労慣れしてるから、そうやって目前の小さな幸せに怯えちまうんだぞ?」

 もっと幸せになっていいんだって、お前等家族は。
 親友から励ましを貰って俺は首肯する。そうだな、そうだよな、もっと幸せになっていいんだよな。幸せになるためにはまず、聖保安部隊としっかり話をつけてこないと。だあれがあいつ等に弟を渡すかってんだ!

 「一個くれよ」手を伸ばす朔月の手を払い落とし(朔月「ケチだぞ!」)、「見てろ聖保安部隊」俺は負けねぇからな! と、高らかに意気込むのだった。
 



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あきゅろす。
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