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009


 

「なんでてめぇはそうやって独りで背負い込もうとするんだよ」

 
 巻き込めばいいじゃねえか。散々てめぇは異例子で苦労してきたんだぞ。同じ異例子の出来損ないを巻き込んで、その苦労、そいつ等に背負わせればいいじゃねえか。なんでンなこと言うんだよ。当たり前のように自分は化け物だって受け入れて、出来損ないを化け物だって認めないんだよ。
 お人好しだから似合わないだって? 俺だってそうだ。てめぇが化け物なんざ似合わない、似合わないんだよ阿呆。

 もう、いいじゃねえか菜月。
 独りで背負おうとしなくても、もう、いいじゃねえか。異例子、三つに分割しちまえばいいじゃねえか。なあ? 俺等に背負わせないとこが、お人好しなんだよ。馬鹿が。

「傷付いて欲しくないは互い様だ。菜月、てめぇはきっと人間界の方が幸せに暮らせていたんじゃねえかと思う。聖界はてめぇにとって肩身の狭い世界。不幸せばっかだ。もっと自由にさせてやりてぇけど、俺と柚蘭にできることなんざちっせぇことで。傷付けてばっかな生活だな」

 ぐしゃぐしゃに頭を撫でてやる。嫌がる素振りも見せず、菜月は力なく一笑。

「でも柚蘭や螺月は俺に居場所をくれる。俺は、あんた達が思っているほど…、不幸せじゃないよ。俺は天使嫌いだけど、あんた達はあったくて好きだよ」
  
 そう思うと、聖保安部隊に引き取られるのは嫌かもしれない。

 菜月は泣き泣き泣き笑いして毛布に潜水。それを引き止めた俺は自分の方に弟の体を引き込んで、そのまま腕に閉じ込めた。
 末子の気質なのか菜月の根は甘えん坊だ。俺等の前じゃなかなか出さないし、小鬼の前でも大人ぶってるけど、根は誰かに甘えたい気質なんだ。兄貴だから嫌でも分かるんだよ。姉貴なんざ俺以上に見抜いてるんだからな。
 「だいじょーぶ」てめぇはひとりじゃないし、ヤでも俺達と一緒だよ、言葉を掛けると鼻を啜る音が聞こえた。少し感情が昂ぶっているらしい。

「俺も天使が…、よかったな」
 
 じゃあ俺も柚蘭も人間が良かったよ、言葉を返して菜月の瞼を閉じさせる。
 だったら家族揃って人間界で暮らせていたかもしれない。「異例子は三人」もう異例子が一人なんて言わせない、運命分かつ三兄姉弟、それを菜月に知っておいて欲しい。「ずっと一緒だ」だいじょーぶ、言葉を繰り返すと、「螺月はあったかいや」と泣き笑いが返ってくる。光栄だな。

 次第次第に口数も少なくなり、先に菜月が夢路を歩き始める。俺は安堵したような寝顔に頬を崩し、「おやすみ」背中を擦って瞼を下ろした。いい夢、お互いに見れるといいな。



「あらあら。二人とも仲がいいんだから」 
 
 翌日、俺と菜月を起こしにきた柚蘭が微笑ましいとばかりに笑声を上げるんだが、これは蛇足にしておく。




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あきゅろす。
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