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異例子と呼ばれて


 
 
 鬼夜菜月。
 

 それが俺の弟の名前だ。天使から生まれた人間“異例子(いれいご)”と呼ばれ、差別され続けている。菜月が本当に有名になったのは、聖界が誇る神聖な儀式を無効化したことなんだが、それは俺自身思い出したくもない出来事だ。省略することにする。

 俺の弟は七つの時、母上に捨てられじじ上に引き取られた。それ以降、じじ上の葬儀まで再会することのなかった。実際には一度だけ、再会しているんだが菜月自身はその出来事を知らないだろう。
 
 菜月は人間でありながら天使から生まれている子供。
 そのため聖界人として一応、周囲から認知されている。本人も聖界人という肩書きは自覚している筈だった。が、こいつは聖界が最もタブーとしている掟破りを犯し、今日(こんにち)まで自由拘束の刑罰、聖保安部隊の監視下に置かれている。

 菜月が犯した罪は魔界人との交流。
 魔界とは一切繋がりを持ってはならない。固く禁じられている掟を菜月は三年も前から破っていた。我が目を疑うとはこのこと、弟は悪魔と意中関係になっていたんだ。本来ならば儀式を受けなければいけないほどの大罪なんだが、族長の慈悲により菜月は自由拘束という軽い刑罰で赦された。
 本人は儀式でも何でも受けてやると虚勢を張っていたけど、所詮は負け犬の遠吠えの負け惜しみ。こうして日々に生かされ、監視下に置かれている。

 俺と柚蘭は菜月を引き取って、同じ監視域で暮らしているんだが、最初に述べたとおり、俺達は上手くいっていない。ぶっちゃけ嫌われている。
 
 今朝だって俺達と朝食を取りたがろうとしない弟を部屋から引きずり出して、一緒に飯を食ったんだが、あいつ、始終不機嫌でやんの。
 なんっつーかさ。ちゃんと覚悟は決めていたが、あからさま俺はアンタ達のことが大嫌いです態度を取られるとこっちもヘコむ。激ヘコむ。いや菜月は物心ついた時から、つく前からまーいにち家族総出で大嫌いです態度を取られていたんだから、ちょっとやそっとで落ち込む俺こそ論外なんだろうけど。俺のハート、弟よりも弱いのかもしれない。
 
   
「なあ、朔月。人間界の知識、何でもいいから俺に提供してくれねぇか?」


 昼休み。

 食堂で親友と飯を食っていた俺は、前触れもなしに相手に頼み込む。人間界の知識を俺にくれってな。
 人間界マニアは目をまん丸に見開き、「お前もついに!」人間界の良さが分かったか! なんでもいいぞ、さあ、なんでも聞いてくれ! 目を輝かせてくる朔月に俺はゲンナリ。いや、俺はべつに人間界マニアになりたいわけでも、てめぇのオタク話を聞きたいわけはねぇんだぞ。
 ただ話題づくりが欲しいわけだ。菜月と接点が欲しいっつーか。

「ほら、俺の弟…、人間界でずっと暮らしていただろ? めでたく一緒に住むことはできたんだが、ゼンッゼン話題がなくて話すに話し掛けられねぇんだ。だから人間界の話題をダシに使おうと思うんだが」

 一変して苦笑いを浮かべる朔月は、「思い出すんじゃないか?」人間界の暮らしのことを、と指摘してくる。

 そりゃ分かってるって。
 けど会話が続かないんだよ、会話が。
 
 聖界嫌いの菜月に聖界の話題を振っても完全シカトするだけだろうから、俺が人間界の話題を振るしかないじゃねぇか。




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あきゅろす。
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