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003


 
 「駄目かなぁ」人間界の話題を出せば、ちったぁ距離が縮まると思ったんだが、溜息をつきながら俺は皿に乗っているアケの実をフォークで突っつく。大好物のアケの実さえ喉を通りそうにない。それだけ俺は弟との間にできちまった垣根や溝に打ちひしがれているというわけで。
 会話がないと垣根や溝は取っ払えない。相手の心に触れないと距離は縮まらない。嫌われていると分かっているからこそ、早くその溝を埋めてしまいたいと焦る俺がいるんだよな。
 「ナイーブになっているだろうし」あんま刺激はしたくねぇし、ああ、どーすりゃいいんだ。この八方塞!
 
「なんか、螺月の悩みは反抗期を迎えた子供を持つ親そのものだな」

 他人事のように笑う朔月は、「しょーがない」親友として一肌脱いでやると胸を叩いてくる。
 とっておきの人間界の知識をくれてやる。朔月は意気揚々とした面持ちで、「今日。家に来いよ」と誘ってきた。持つべきものは友だな。俺は朔月に礼を告げて、その誘いに甘えることにした。が、これが大後悔することになる。

 朔月の奴、人間界の知識を提供し始めたらとまらなくなったんだ。
 もう腹いっぱいだって言ってるのに、まだまだ人間界の凄さはこんなもんじゃないとあれやこれやどれや。収拾がつかなくなったのは言うまでもないだろう。最後に聖界ではなかなか手に入らない人間界の手土産を頂戴して、帰宅したんだが時刻は九時を過ぎていたという。

 柚蘭に何をしていたんだとお咎めを頂戴したのは余談にしておこう。もう一つ、余談として菜月は既に夕飯を取って自室に閉じこもっていたことを付け足しておく。
 まさかこの時、菜月が自室で自己流に傷の手当てをしていたなんて俺は知る由もない。あいつが聖保安部隊に暴力を振るわれていると知るのは、それから幾日か経った頃だった。
 

 *

 
「だっから俺も柚蘭も反対だっつってるだろうが! なんで菜月をてめぇ等に預けなきゃなんねぇんだよ!」
 

 菜月が聖保安部隊から暴力を振るわれていると知ってから、俺や柚蘭は何かと聖保安部隊と対峙するようになる。

 今もそう。菜月の身柄のことで監視している第五聖保安部隊の隊長と意見が割れていた。断固として反対だと椅子を倒してテーブルを叩き喝破する俺に、「仕方がないだろ」郡是隊長が冷然と返す。何が仕方がないだ、馬鹿野郎。寝言を言いに来たなら家に帰って寝て来い。
 鼻を鳴らし、俺は椅子を起こしてそこにどっかり腰掛ける。何について揉めているかっつーと、冒頭で吠えたとおり、菜月の身柄についてだ。
 
 事の発端は親父が起こした奇襲事件のせい。
 
 異例子が何者かによって誘拐されそうになった、そして狙われたということで丸一日、急遽有休を取った俺達は聖保安部隊に聴取されているわけなんだが。その際、一件の事件で異例子の身柄を聖保安部隊が預かるという案が出て、揉め事が発生している。
 ちなみに聴取場所は仮家(別名:監視場)からちょっと離れた仮部署。郡是隊長率いる聖保安部隊が交替で菜月を見張る部署の一室で聴取している。
 
 向かい側で腰掛けている郡是隊長曰く、異例子誘拐・奇襲事件は聖界にとっても鬼夜族にとっても非常に不味い事件だったらしい。
 ただでさえ異例子の存在が外部(民衆)に漏洩しては不味いというのに、何処からか情報を仕入れて異例子を我が物にしようとする輩がいる(俺達の父が起こした騒動だと向こうは知らない)。聖保安部隊としてもそれは見過ごせない。
 これを機に聖保安部隊が菜月の身柄を引き取り、個別に監視すると案を俺等姉弟に申し出た。

 とんでも発言に俺は即却下する。
 

「ぜってぇ反対だ! 第一菜月を何処で監視するつもりだ。隔離された侘しい一室か? それとも牢獄か? どっちにしろ菜月にとって肩身の狭い監視場に決まっている。だったら俺達が今までどおり、面倒看る」
 
「鬼夜螺月。事件が起きてしまった以上、見過ごすわけにはいかないんだ」

「そっちだって暴行事件を起こしたじゃねえか。聖保安部隊なんざ信用できるか」
 




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あきゅろす。
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