Others
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「…………、」
壁から跳ね返ってきたボールを、両手でキャッチした早乙女は、ゆっくりとした所作でオレを振り返った。
サラリ、と揺れる金糸。長めの前髪の間から覗くのは、意志の強そうな吊り上がり気味の蜂蜜色の瞳。
白磁の肌は、日差しに晒された事などないかの様に、シミ一つない。それを見て、彼が体が弱いと噂で聞いた事を思い出した。
本当に、綺麗な顔だ、と思わず感心する。
但し、美少女には見えないなと、さっきの白鳥の発言に心の中で反論した。
身長はオレより少し低いが、骨格が完全に男のもので、華奢には感じない。
外国の血が濃そうだし、鍛えたら多分、かなり良い体になりそうだ。
「……何だ」
不躾に眺めてしまい気を悪くしたのか、早乙女は秀麗な眉をひそめ、不機嫌そうにオレを見た。
失敗したな、と思いつつも、ヘラリと笑いながら、当初の目的を口にする。
「一人?あいてるなら、オレと組んでもらえないか?」
オレのその言葉に、周りが騒めいた。
驚愕、好奇、威嚇、色んなものが一気にオレに向けられる。
遠くで『あちゃー』と言いたげに顔を手で覆う白鳥と、唖然とする大熊も見えた。
「結構だ」
周囲の反応は全く気にせず、早乙女は居丈高にそう言い放った。
凛とした表情や、冷たい声音は取りつく島も無い。
周りから失笑が洩れ、揶揄する様な呟きがポツポツ聞こえた後、体育館は再び喧騒を取り戻した。
……馬鹿にされているところを見ると、オレ断られたのか。
でも、返事おかしくね?
「……結構って、どっちの意味?」
「…………」
オレのアホな呟きに、早乙女は目を瞠った。
厳しい表情が崩れ、少し幼く見える。
「君は、馬鹿か」
凄い。
こんな真面目な顔で、真っ正面から切り捨てられたのは始めてだ。しかも、凄く可哀想なものを見る目で。
「だってさ、『オレと組んで』の返答が『結構だ』って変だろ。YesかNoで答えろよ」
『嫌だ』とか『断る』の方が分かりやすいよな。日本語って難しい。
オレがそう言うと、早乙女は何故か表情を硬化させた。
「……一人寂しく練習する僕を哀れんで声をかけたんだろう。そんな気遣いは無用だと言っている」
「…………はぁ?」
早乙女の発言から、たっぷり間を置いて、オレは唖然とした。
え。
何言っているの、コイツ。
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