Others
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「大丈夫か、獅子堂」
先生の呼び掛けに、獅子堂は一応頷くが、誰が見ても大丈夫では無かった。教室内が騒めく。
「僕が保健室までお連れします」
「!」
その少年の言葉を聞いて、オレの頭の中で一年前の記憶が蘇ってくる。
そうだ。確か一年の時、獅子堂は貧血で倒れた。で、保健室運ばれた筈。
今は、意識は失っていないみたいだが。その辺りの誤差は、オレがやったブラックコーヒーが関係しているんだろうか。
まぁソレは置いておいて。
この時の事で、エグい噂を聞いた事がある。
会長が親衛隊を毛嫌いする様になった原因の一端だと、友人に教えてもらったのだが…、その噂というのは、『保健室で寝ている所を、親衛隊の子に襲われた』というものだ。
あくまで噂だが、寝ている会長のナニを、勝手にフェラしだしたという。怖。
この学園に染まりきった奴は、役得だの羨ましいだの勝手な事を言うが、ノーマルの人間にしてみれば、それは一種のホラーだ。
オレは心底会長に同情した。巨乳グラビアアイドルならともかく、自分と同じブツのついた野郎にしゃぶられてるとか憐れすぎる。
「…………」
オレは、清楚な美少女風の子の横顔を見ながら、小さく唸った。
どうする、どうするオレ。
こんな子が、具合の悪い会長のチン○、くわえる様には見えないんですけど。
その辺りの未来も、もう既に変わってんのか。分からん。
それにあくまで噂。本当かも分からない。
第一、既に決まりかけている付き添いの座を、どうやったら穏便に奪える?
ぐるぐる考え込んだオレは、躊躇し動けずにいた。
……でも。
「っ、」
ろくに動けない状態のクセに獅子堂は、親衛隊の子の手を避ける様に身動ぐ。
青褪めた美貌を歪めた獅子堂の、漆黒の瞳が、まるで懇願する様にオレを見た瞬間、
オレは立ち上がっていた。
ガタン、と椅子が大きめの音をたてる。シン、となった教室中の視線がオレに集中した。
……うわぁ、気まずい。
でも、もう後戻りは出来ないしな。
なるべくやる気なげに見えるよう、ヘラリと緩い笑みを浮かべたオレは、軽く手をあげた。
「……センセー。付き添い、オレが行きまーす」
「……えっ?」
親衛隊の子は、戸惑う様な声をあげ、教師も困惑した顔でオレらを見比べる。
付き添いの座を取り合うには、オレは美少年度合いが足りませんか。うん、分かります。
オレ、身長も一応175cmあるし、顔も普通だしな。
戸惑いが警戒に変わり、威嚇する猫みたいな美少年を見つめ、オレは殊更甘く笑んだ。
「こんなガタイがいい男、君みたいな華奢な子じゃ、途中で潰されちゃうよ?」
「……っ!」
美少年は軽く目を瞠り、次いで頬を赤く染めた。焦ったように視線を外され、内心で、おっしゃ、とガッツポーズ。
美形でも何でもないオレですが、実は結構モテる。
本物の美形は、女の子に割と敬遠されやすい。顔は普通でも、髪形や小物でどうとでもなるし、むしろ雰囲気や性格の方が重視される。
この笑い方も、女の子に好評だった。一見美少女でも、男に通じるかは微妙だったが、セーフらしい。
「という訳で、オレが連れて行きます」
呆気にとられつつ教師は頷き、オレは青い顔した男前に手を差し伸べた。
「……立てるか」
肩を貸して歩き始めると、獅子堂は真っ青な顔で目を瞑りながらも、小さな声で悪ィ、と呟いた。
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