Others 4 「大丈夫か、獅子堂」 先生の呼び掛けに、獅子堂は一応頷くが、誰が見ても大丈夫では無かった。教室内が騒めく。 「僕が保健室までお連れします」 「!」 その少年の言葉を聞いて、オレの頭の中で一年前の記憶が蘇ってくる。 そうだ。確か一年の時、獅子堂は貧血で倒れた。で、保健室運ばれた筈。 今は、意識は失っていないみたいだが。その辺りの誤差は、オレがやったブラックコーヒーが関係しているんだろうか。 まぁソレは置いておいて。 この時の事で、エグい噂を聞いた事がある。 会長が親衛隊を毛嫌いする様になった原因の一端だと、友人に教えてもらったのだが…、その噂というのは、『保健室で寝ている所を、親衛隊の子に襲われた』というものだ。 あくまで噂だが、寝ている会長のナニを、勝手にフェラしだしたという。怖。 この学園に染まりきった奴は、役得だの羨ましいだの勝手な事を言うが、ノーマルの人間にしてみれば、それは一種のホラーだ。 オレは心底会長に同情した。巨乳グラビアアイドルならともかく、自分と同じブツのついた野郎にしゃぶられてるとか憐れすぎる。 「…………」 オレは、清楚な美少女風の子の横顔を見ながら、小さく唸った。 どうする、どうするオレ。 こんな子が、具合の悪い会長のチン○、くわえる様には見えないんですけど。 その辺りの未来も、もう既に変わってんのか。分からん。 それにあくまで噂。本当かも分からない。 第一、既に決まりかけている付き添いの座を、どうやったら穏便に奪える? ぐるぐる考え込んだオレは、躊躇し動けずにいた。 ……でも。 「っ、」 ろくに動けない状態のクセに獅子堂は、親衛隊の子の手を避ける様に身動ぐ。 青褪めた美貌を歪めた獅子堂の、漆黒の瞳が、まるで懇願する様にオレを見た瞬間、 オレは立ち上がっていた。 ガタン、と椅子が大きめの音をたてる。シン、となった教室中の視線がオレに集中した。 ……うわぁ、気まずい。 でも、もう後戻りは出来ないしな。 なるべくやる気なげに見えるよう、ヘラリと緩い笑みを浮かべたオレは、軽く手をあげた。 「……センセー。付き添い、オレが行きまーす」 「……えっ?」 親衛隊の子は、戸惑う様な声をあげ、教師も困惑した顔でオレらを見比べる。 付き添いの座を取り合うには、オレは美少年度合いが足りませんか。うん、分かります。 オレ、身長も一応175cmあるし、顔も普通だしな。 戸惑いが警戒に変わり、威嚇する猫みたいな美少年を見つめ、オレは殊更甘く笑んだ。 「こんなガタイがいい男、君みたいな華奢な子じゃ、途中で潰されちゃうよ?」 「……っ!」 美少年は軽く目を瞠り、次いで頬を赤く染めた。焦ったように視線を外され、内心で、おっしゃ、とガッツポーズ。 美形でも何でもないオレですが、実は結構モテる。 本物の美形は、女の子に割と敬遠されやすい。顔は普通でも、髪形や小物でどうとでもなるし、むしろ雰囲気や性格の方が重視される。 この笑い方も、女の子に好評だった。一見美少女でも、男に通じるかは微妙だったが、セーフらしい。 「という訳で、オレが連れて行きます」 呆気にとられつつ教師は頷き、オレは青い顔した男前に手を差し伸べた。 「……立てるか」 肩を貸して歩き始めると、獅子堂は真っ青な顔で目を瞑りながらも、小さな声で悪ィ、と呟いた。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |