Others
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「な、……っああ!?」
ズン、と衝撃が襲う。
呆然と固まっていたオレの腰を引き寄せ、彼は深く抉った。
ギリギリまで引き抜かれていたソレで一気に貫かれ、上手く息も吸えない。
震える手に、指が絡む。
一本一本を絡め取る様に、しっかりと手を繋いだ彼は、真上からオレと視線を合わせた。
彼も苦しいのだろうか。
涙で滲む視界に映る彼は、痛みを堪える様な顔をしていた。
火傷しそうに熱の籠もった視線が、オレを射抜く。
「――伊都(イト)」
「……っ!?」
何で彼が、オレの名前を知っている?
「いと、いと、伊都」
何度も繰り返しながら、彼はオレに口付けた。
チュ、チュ、と音をたて上唇を吸い、舌でなぞり、下唇を食む。
侵入してきた舌は、ドロドロにオレを甘やかす様に、口腔内を愛撫する。
あまりの気持ち良さに意識を飛ばしそうななるオレだったが、希(コイネガ)う様な彼の瞳が強過ぎて。
「……ずっと、見ていた」
「っ、」
「学習塾が入っているビルの窓を何気なく見たら、月を見上げるお前がいた。……だから何だって話だよなぁ。……でもオレは、その日からお前を見てきた」
「……嘘、」
自嘲するみたいに、彼は苦笑を浮かべる。
言葉を紡ぐ合間に、オレの額や目蓋や唇に、雨あられの如く彼の口付けが落とされた。
慈しむように、愛しむように、彼の唇がオレの輪郭を辿る。
その唇が紡ぐ言葉が、信じられなくて。
オレは息を詰めた。
初めて彼を見つけた日。
月光浴する獣みたいに、綺麗で凛々しい横顔に見惚れた日に。
彼もオレを、見つけてくれていたなんて。
「偶々前を通り過ぎたコンビニにお前がいて、それ以来何となく其処を通る様になって」
オレも。
オレも、今まで以上に、あのコンビニに通うようになった。
「擦れ違う時に、耳を澄ましてお前の情報を拾おうと、馬鹿みてぇに必死だった」
オレも。
貴方の名前が知りたくて、どんな小さな事でも知りたくて。
必死に耳をすました。
「名前知れて嬉しい以上に、悔しくて。お前の隣でお前の名を当り前に呼べる奴に嫉妬したり……無様だな」
オレも、貴方の周りを囲む人達が羨ましかった。
「無様で臆病なオレは、たまにお前を見かける程度で十分だと言い聞かせていた。……んな訳ねぇのにな。車にひかれそうになったお前を見て、オレは頭が真っ白になった」
言われて、うっすらと思い出す。
車にひかれそうになったあの時、確かに『伊都』と自分の名を呼ばれた。それから突き飛ばされ、道に倒れた衝撃で気を失ったんだ。
………ん?
て、事はだ。
「……オレ、死んでない……?」
唖然としながら呟いた言葉に、彼は不機嫌そうに顔を歪めた。
「誰が死なすかよ」
え。え。え。
じ、じゃあ……この、目の前の彼は本物で……
「…………」
繋いでいた手を離す。ゆっくりと彼の整った顔に触れると、彼は僅かに目を瞠ったが好きにさせてくれた。
額に浮かんでいた汗を拭い、頬を辿る。
幼子(オサナゴ)がするみたいな稚い手つきで頬を擦ると、彼の鋭い瞳が揺らぐ。
「伊都」
懇願するみたいな声だった。
耳から侵食して、オレのすべてを溶かしてしまいそうな、甘く切ない声音。
「いと、――伊都」
手のひらに唇が触れる。
彼は瞳を伏せ、何度もオレを呼んだ。
「……怖がられてもいい。嫌われてもいい。お前を手に入れようと思った。何があってもお前をなくさない為に、手が届く位置にいようと」
「………あ、」
「許さなくていい。だが疑うな。………愛して、いるんだ――伊都」
「……っ!!」
ボン、と音がしそうな位、一瞬で熱が顔に集まる。
目眩がしそうだ。
こんな熱烈な告白をしてくる彼が、本物の彼だなんて、
オレの事を、好きになってくれていたなんて。
オレのキャパを、とっくに超えている。
「!?伊都…!!」
焦った様な彼の声を聞きながら、オレは再び意識を手放した。
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