Others
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「…どうなさったんですか?」
どうやって戻ったのか覚えていないが、いつの間にか風紀室に帰ってきていたオレに、そう気遣うように声をかけてきたのは、オレの右腕である副委員長だった。
「お顔の色が優れませんが…何処か具合でも?」
普段クールで何事にも動じない彼は、オレに対してのみ過保護な所がある。
眼鏡越しの硬質な美貌が、心配そうに歪められた。
「……いや、大丈夫だ。」
基本、人に頼る事が苦手なオレだが、月村に惹かれてから、男同士の恋愛というものに戸惑い、副委員長に相談にのってもらったりもした。
だが、既に多大な迷惑をかけている彼に、別れ話まで相談するのは如何なものかと、無理矢理浮かべた苦笑で濁す。
けれど副委員長は、誤魔化されてはくれなかった。
「…月村君と、何かありましたか。」
「………………。」
疑問ですらない、断定。
オレは嘘をつく事も出来ず、僅かに俯いた。
「…失敗なさったんですか?……申し訳ありません。私が至らないばかりに。」
「違う。」
自分を責める副委員長に、オレはかぶりを振った。
「手を出す前に…捨てられてしまった。」
苦笑を、浮かべようとした。
でも、全く笑えない。
苦い笑みさえ、つくれない。
顔を歪めたオレに、副委員長は、彼の方が泣きそうな顔をした。
「…『恋人』の意味が違うと言われた。」
「…風祭様、」
副委員長は、オレに寄り添うように身を寄せる。
「…矢張り、経験豊富で恋多き月村君と貴方では、お付き合いは難しかったんですよ。」
…その言葉を、オレは何度も否定してきた。
月村には沢山の噂がある。
それはセフレが大勢いるとか、中学時代に不祥事を起こしたとか、あまり耳障りの良くない事ばかりなのだが、本人を良く知る人物ならば、こぞって否定するだろう。
オレも、馬鹿馬鹿しいと、それを信じた事など無い。
だが、恋人になって、少しだけ不安が過った。
彼はとても綺麗でモテる人。
だから、噂は嘘であっても、そう勘違いさせる程度には、恋愛をこなしているんじゃないか、と。
オレは、女性相手ならば何人か経験があるが、男同士は初めて…失敗して嫌われたら…そして、それよりも、月村を傷付けてしまったら、どうしよう、と、
不安に思っていた。
そんな折だ。副委員長が、『ならば私と練習致しませんか』と言い出したのは。
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