Sub 9 「……ごめんな。凛。」 ポツリと、黒さんは、呟いた。 「忘れてた、ってのは嘘だ。…わざと黙ってた。」 その言葉に疑問は浮かんだけれど、オレは、問い詰める事はせず、はい、と先を促すように頷くだけにした。 「…言えば、お前はきっと、皆と一緒に、色々考えて祝ってくれようとするだろ?……でもオレは、オレの我が儘で、お前だけ傍にいて欲しかったんだ。」 黒さんの意外な言葉に、オレは目を瞠る。 黒さんは、自嘲するみたいに苦笑して、オレの手を引いて、再び歩きだした。 「…何もしなくていい。ただ、毎日の延長みたいに、お前がいてくれるだけで、オレは十分なんだ。」 歩きながら、黒さんは、オレの手をブラブラと揺らす。 日々の延長。 それは、凄くありふれた言葉で、格好良くも、ドラマチックでもないけれど。 オレには凄く、素敵に聞こえた。 一度失ったオレにとって、誰かと一緒に重ねる日々は、何にもかえがたい、宝物。 それが、貴方となら、尚更。 そこまで考えて、思い至る。 ―――黒さん、も? 貴方も、何かを無くしたんですか? . [*前へ][次へ#] [戻る] |