Main 懐疑 軽くお辞儀をして去っていく彼を見送り、オレは直ぐ様、桜子さんに向き直る。 驚いた様に瞠られた瞳を覗き込んで、短く要点だけ告げた。 「…桜子さん、此処から動かないで。日下部先輩が、たぶんしずかちゃんを連れてくるから、そしたら、オレが尚久さんを追っていったって伝えて欲しい。」 「!…凛君、まさか」 その言葉だけで、桜子さんは察してくれたようだ。 オレが、尚久さんを、疑っているという事を。 撫子さんの行方を、彼ならば知っているんじゃないかと、 彼が、嘘をついているんじゃないか、と。 強張った表情の桜子さんに、オレは苦笑を浮かべる。 「オレが勘繰りすぎてるだけだと思う。…だから、大事にはしないで。」 「……………、」 そんな上っ面だけ安心させるように笑んでみても、一度芽吹かせてしまった不安の種は、取り除けない。 けれど気丈な彼女は、取り乱さずに、唇を噛み締めていた。 「…………分かった。」 蒼白な顔で、桜子さんが頷いたのを確認して、オレは身を翻し、尚久さんが消えた方向を目指した。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |