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陰/陽 (イン/ヤン)


 かなり狼狽している自分自身にむけて、落ち着け、と何度も繰り返す。だが、早鐘を打つ鼓動は、中々おさまってくれそうに無かった。


「この辺一帯を仕切る《ケルベロス》の一番の敵対チームが《陰/陽》だ。規模は《ケルベロス》に劣るが、力では五分だな。一騎当千って言うのか?……一人一人の能力が高い事で有名なんだ。《陰/陽》は」

「詳しいな……」


 内心の動揺を悟られないよう、平坦な声で返す。
オレの焦りには全く気付かず、石田は照れ臭そうに笑った。


「内緒な……兄貴が昔、《陰/陽》にいたんだ。その影響もあって、オレも憧れている。《ケルベロス》と違って無闇に喧嘩しかけたりしねぇし、一般人を巻き込んだりしねぇし……なんつーか……仁義がある!」


 最初こそ声を潜めていたが、だんだんテンションが上がってきてしまったらしい。拳を握りしめ力説する石田を、オレは諌めた。


「声でかいよ……石田」

「あ……悪ぃ……」


 オレの声で我に返った石田は、頬を赤く染めて素直に謝った。
 強く格好良い存在に憧れるのは、男の性(さが)。年相応の微笑ましさに、オレは笑う。

 そしてこっそり、心の中でお礼を言った。

 大好きな人たちを誉めてくれて、有り難う、と。


「でも、よく解放してくれたな?」

「そうだな。随分簡単に解放してくれたよなぁ」

「さっきの質問意外、他には何か、変な事言ったりしてなかったか?」


 石田のお蔭で冷静さを取り戻せたオレは、話の軌道を元に戻し、気になった事を聞いてみた。

 さっき石田が言った質問だけで、連中があっさりと解放するとは思えない。他にもきっと、あった筈。

 肝心の質問を、石田が気に留めていないのは恐らく、それこそが彼を白だと判じる理由。大勢の白の中から、黒を炙り出す為のもので、該当者意外は反応しないものだからなんじゃないかと、オレは睨んでいた。

 だってさっき石田が教えてくれた質問だけだとすると、『お前《陰/陽》か?』『いえ違います』でアッサリ帰した事になる。
 そんな馬鹿な。今時、生粋のお嬢様でも、そんなに無垢で純粋じゃないだろう。


「そういえば何か、よく分かんねー事言っていたな。でも、俺らが誰も反応出来ないでいると、アッサリ帰っていーぞって言われた」

「……何て?」

「……忘れたなー………何か、黒い龍がどうのって」


 石田の言葉に、オレは目を眇めた。
 分かり易い撒き餌だと分かっていても、聞き流す事の出来ない単語が、彼の口から零れ落ちた。

 ……どうやら、素通り出来る問題ではないようだ。
 だが、動く事は危険を伴う。


「…………」


 何とも面倒な展開に、痛む頭を押さえつつ、オレは深くため息をついた。




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