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ドナドナ石田
教室に戻ったオレは、喧騒に包まれた室内をぐるりと見回す。
さして間を置かず、目当ての人物を発見した。
丁度昼飯を食べ終わったのか、ゴミを片付けている彼の背後から近づき、軽く肩を叩く。
「よ、石田」
石田は顔をあげ、軽く目を瞠る。
次いでマジマジとオレの顔を眺め、少し考え込んだ。同じクラスではあるが、接点は余りない為、名前がすぐに思い出せないんだろう。
「えーと……」
「さっきは大変だったな」
「あっ!お前、さっき一緒に呼び出されていた……」
記憶を呼び起こそうと唸る石田に、分かり易いヒントを出す。
流石に思い出したのか、大きく頷いた彼は、オレを指差した。
「はーい。人畜無害な顔のお陰で、難を逃れた斎藤凛です」
にこやかに笑み、手を挙げ自己紹介をする。ふざけた言い回しのオレに、石田は、苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
「ずりーよなぁ。俺が1人でどんなに心細かった事か」
「1人だったの?」
石田の前の席に勝手に座り、身を乗り出す。
野次馬根性丸出しな人を装い、軽く突っ込めば、石田は嫌そうな顔ながらも答えてくれた。
「道中は一人だった。……でも、最終的に連れて行かれた空教室には、俺を含めて10人くらい集められていた」
「ヤキ入れられた?」
「いーや。いくつか質問されただけ」
「……質問て?」
「ん?別に大した質問じゃなかったな。何処の出身か、とか、チームに所属しているか、とか」
「チーム……」
どうやら西崎の予想は当たっているらしい。
そしてオレの嫌な予感も、同時にどんどん大きくなる。
オレが洩らした小さな呟きを拾った石田は、内緒話をするように顔を近付けてきた。
「……でかい声じゃ言えないが、どうやらあるチームの奴を探しているらしい」
「………石田。……そのチームの名前、覚えてる?」
周辺に気を配りつつ、声を潜めた石田に合わせ、オレも低く問う。
不自然に鋭くなってしまったオレの視線や声には気付かずに、石田はアッサリと答えをくれた。
「ああ。有名なとこだからな。南区に拠点を置く《陰/陽》って知らないか?」
「っ……!!」
思わず息を呑み、固まる。
渇いた喉が、ひゅ、と不自然な音をたてた。
嫌な予感は大当たり。完全なるビンゴ。
那須与一に射抜かれた的のように、見事に的中してしまった。
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