小説
なんで(現代政宗)
大っ嫌いだった筈なんだ。
あんな奴なんて。
容姿端麗で、自信家で、自惚れやのあいつなんて。
なのに、放課後の教室で、何であたしはこいつの腕の中に居るんだろう。
そして、何で心地好いんだろう。
『思ったより、大人しいじゃねぇか』
あたしの頭の上で声がした。
声の主は、伊達政宗。
そう、あたしが大っ嫌いだった筈の男。
所謂幼なじみだ。
『っ!もう離してよ!』
そう云い、あたしは身体を離そうと政宗の胸元を抑える。
『まぁまぁ。そう云いなさんなって』
びくともしないばかりか、逆に更に強く抱き締められてしまった。
腰と背中にしっかり腕を回され、これじゃあもう自分の力では敵わないな…と思う。
『自分の気持ち、分かったかよ?ん?蓮見?』
自分の…気持ち…。
ああ、そうだ。
何故か他の女の子と喋ってる政宗を見て、無性に苛々してしまったんだ。
そんな光景、何度も見てる筈なのに。
それで、思わず当たってしまったんだった。
何に腹が立ったのかさえ分からないままに。
そしたら、政宗が
『分からせてやる』
っていきなり抱き締めて来て…。
『お前が腹立てた理由、それはヤキモチじゃねぇか?girl?』
違う。
と云いたかったが、声にならなかった。
何故なら、口唇が、何かに被われてしまったから。
何か?
…政宗の口唇に…。
『っ!!』
『まだ認めねぇつもりかよ。蓮見。お前の気持ち、もう透けてるぜ』
ひゅう♪と楽しそうな政宗。
顔が赤くなるのが分かる。
なのに、否定出来ない。
そして、もっと欲しいと思ってしまってる自分は何だ…。
『その顔、最っ高にcuteだぜ』
羞恥と恍惚の入り混じった表情。
自分でも気付き始めている。
何であんなに苛々したのか。
この、胸が熱くなる感情はなんなのか。
強引なのに、甘さを感じるのは何故なのか。
思うより先に口が開いた。
『他の子に触らないで』
おや?と云う表情で政宗があたしを見る。
そう、あたしは、馴れ馴れしく他の子に触ってる政宗を見たくなかったんだ…。
『他の子に触らないで。憎まれ口聞くのもあたしだけにして。こうやって、抱き締めたり、キスしたりするのもあたしだけにして』
ああ…。
今確信した。
知らず知らずの内にこんなに堕ちて居たなんて。
そして、その感情に気付かなかったなんて…。
あたしは、政宗が好きだったんだ…。
手が届かない想いに、蓋をしていたんだ。
政宗は、いつでも人気者だったから。
自分の鈍感さに呆れるを通り越して感心して居ると、ふと視線を感じた。
見上げると、政宗があたしを見ていた。
『やっと素直になったじゃねぇか』
釣り目がふわっとほころぶ。
『え?』
分からないと云う表情のあたしに向かって政宗は云う。
『もう、とっくの昔からばれてんだよ。おめーの気持ちは』
何と云う事だろう。
想いの主のあたしより先に想われ主の政宗が気付いて居たなんて…。
『幼なじみ何年やってると思ってんだ。お前の態度の変化なんてばればれなんだよ。』
『でも、あたし、今自分でちゃんと気付いた…』
ほうけた様にそう云うと、溜息を吐き意地悪そうな笑みを浮かべた。
『そんなこったろーと思ったぜ。いつまで経っても云って来ねぇしよ。だから、俺、ちょっと強行手段に出てみた』
はははっと笑う政宗。
何て事だろう。
そこまで見抜かれて居たなんて…。
でも、肝心の政宗の気持ちは…。
『今更それ聞くかよ。俺も、ずーっと昔から蓮見が好きだぜ!!』
そう云って、ぎゅうっとあたしを抱き締める政宗に、どんどん堕ちて行く自分が見えて少し怖くなった。
でも、またキスをされたらそんな事、どうでも良くなった。
−−−−−−−
−自分から云おうって気は無かったの?
−云わせたかったんだよ!
−何で?
−…。幸せ感じたかったから…。
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