小説
不意打ち(現代幸村)
『好きって云ってくんなきゃもう、別れる』
云ったわ。云ってやったわ。
あたしの目の前で、泣きそうな顔をしてる幸村に!!!
『蓮見殿ぉ…。そんな駄々はこねる物ではござらんよぉ…』
あん?駄々だと?
ギロッと幸村を睨む。
『ひいっ』と云わんばかりに肩をひくつかせる幸村。
気付けば、云ってもないのに正座をしている。
『幸村…』
『何でござろうか…。蓮見殿』
『あたしと君が付き合ってどの位経った?』
『ええと、丸一年でござるな』
ひぃふぅと指を折り数える幸村。
『その間、あたしに何回好きって云ってくれた?』
『………。す、すまぬ…』
どんどん小さくなる幸村。
『何回??!!』
ギロリと睨むと、小さな小さな声で答えた。
ったく。いつものあの馬鹿でかい声は何処行ったってのよ。
『ぜ、0回でござる…』
そうなのだ。
付き合って一年経つのに、この男はあたしに好きと云う言葉もくれないし、手も繋いでくれない。
勿論、キスなど以っての外。
あたしだって、年頃の女子なんだし、好きな人とラブラブしたい訳。
なのに、この男ときたら、少し手を握ろう物ならば
『は、はれんち!!!』
と云って顔を真っ赤にして何処かへ行ってしまう。
最初は、嫌われてるのかと思って、結構傷付いたんだ。
気は強いけど、あたしだって中身は乙女なんだから…。
『幸村、あんた、あたしと付き合ってて楽しいの?』
埒のあかなさに呆れてつい云ってしまった。
幸村の顔は…あらあら…。
正に子犬。
今にもうりゅ〜と泣き出しそうだ。
『蓮見殿…。某が嫌いになって仕舞われたのでござるか…?』
『そんな事は云ってない』
何でそうなるの…。と本当に呆れつつ、あたしは口を開く。
『あたしは、幸村の事が大好きだよ。
だからこそ、もっと触りたい、くっつきたいって思うんだよ。
だけど、幸村は違うじゃん。
あたしとくっつくの、そんなに嫌?』
『某は…』
俯いてポツリと呟く幸村。
『何?』
幸村の顔を覗き込んだその刹那。
チュッ。
いきなり目の前に、幸村のドアップ。
と同時に口唇に温かい物が触れた。
それは、一瞬の事だったけど、正しくキス。
…って云うか…。
『ふ、不意打ち!!』
『そ、某も、蓮見殿の事が大好きでござる!!!
しかし…、どうしてもくっつかれると恥ずかしくて、心臓がこそばゆく、痛くなってしまって…。いつも逃げてばかりで…蓮見殿がそんな事思ってるとはつゆ知らず…』
あああ!…と更に小さくなる幸村。
もう、消えてしまいそうなんですけど。
あたしの心臓も爆発しそう。
けしかけたのは、こちらとは云え、いきなり不意打ちで来るとは…。
予想外の展開で動揺してしまったわ…。
けど、なんだ、あんなに気が立ってたのに、すっかり落ち着いてしまった。
さっきの幸村の行動で。
やっぱ、あたしは幸村の事が好きなんだなぁ。
と、しみじみ。
うーん、しかし、あの幸村が不意打ちねぇ…。
『幸村』
小さくなって、さっきの自分のした事に対して『はれんち、はれんち』と呟いて居る幸村を呼ぶ。
『んー、まぁ、幸村の気持ちは分かったよ。あたし、ちょっと寂しかったんだ。本当は、嫌われてるのかなって』
『そんな事はござらん!!!』
『んー、ありがと。君の気持ちが聞けて嬉しい。ちゃんと好きって云ってくれたしね』
『っ///!そ、某が、不甲斐無いばっかりに…』
『あー、もう、そんな顔しないで』
何て手の掛かる男なんだろうか。
よしよしと宥めながら、さっきから気になる事を聞いてみた。
『あのさ、さっきの不意打ち、誰に教わったの?』
あの幸村が、そんな思い切った事出来るとは思わなくてね。
思い当たる節が一つ有るんだけど…。
幸村は、はっとしてこちらを見ると、口を開いた。
『ま、政宗殿が…』
やっぱりか。
政宗とは、幸村の悪友だ。
顔も頭も良い。しかし女癖が悪い。
こう云う入れ知恵をするのは、あいつしか居ないとは思って居たけれど。
いつもなら、憎まれ口叩きに行く所だけど、今日は感謝してやろう。
『政宗殿が、蓮見は、多分その内爆発するだろうから、そんな時にはこの手を使えと申したでござる…』
流石、女にモテるだけ有るわーと感心してしまった。
政宗…今回だけは本当に感謝。
『ね、幸村。』
何だか落ち着きの無い幸村に声を掛ける。
『ぬ。何でござろうか。』
幸村に近寄りそっと耳打ちする。
幸村はピクリと反応したが、逃げる事は無かった。
『今度はさ…』
こそばゆそうに身じろぎする幸村。
『もっと凄い事しよっか…』
言い終わるやいなや、顔を真っ赤にして、幸村は叫んだ。
『はれんちぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
耳痛い…。
嗚呼…道のりは長そうだ。
でも…。
ま、のんびり行きますか♪
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