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アベミハ大学生シリーズ
12)
謝罪、言い訳、開き直り、スルー。


行動の選択肢は、恐らくこれくらいしかない。
と考えた時点で、オレは既に三橋に負けていると思った。
手の中にある空メールに相応しい答えも、まだ見付からない。

ドアの前まで来て、深呼吸をする。
自分の部屋に入るのにこんなに躊う日が来ようとは、夢にも思わなかった。


アイツ怒ってるかな。
そんな三橋見たことないから、オレ慌てるんだろうな。
泣かれたとしても、きっとみっともないくらいうろたえるだろう。
でも、無視される方がもっとツラいな。

昔より、三橋の行動パターンが更に読めなくなったのはどうしてだろう。

いつまでもここにいる訳にもいかない。
最善の繕い方を決められないまま、オレはドアノブに手を掛けた。


明かりの付いた見慣れた部屋。
奥のリビングからはTVの声が聞こえる。
早く三橋の顔がみたいのに身体が言うことを聞かず、ぐずぐずと靴を脱ぐ。
部屋の空気を読もうとしたが、自分の緊張が邪魔してどうにもならない。

ゆっくりとリビングに向かう。


「ただい―」


言いかけて、オレは呆然とした。
そこには三橋の姿は無く、代わりにヤツの好きなフルーツカクテルの空の瓶が、卓袱台の上で不平をもらすようにいくつも転がっている。
不規則に放置された瓶の隙間には、三橋が買ってくると言っていた弁当が二つ。
オレと三橋のいつもの指定席に、蓋をしたままきちんと置かれていた。


なんでオレの分まで弁当買ってんだ?
…じゃなくて、ちょっと瓶の量が多くないか?
当の三橋は一体…。

まさか、酔ったまま帰った…のか?


三橋のもたらす想定外の展開に、オレはつくづく弱い。
どうすれば良いのか全く分からない。
既に思考は停止していた。


オレたち、終わったのか―?
あのメールはそういう意味なのか?


そんな最悪な予想が、頭の中を何度も駆け巡るだけ。
そこに追い討ちをかけるように、もう一つの言葉が姿を現す。


―いつかボロボロにして見失っちゃいそうね―


…だって、今朝はあんなに楽しげだったじゃないか。
別に喧嘩をした訳でもない。
ただ、帰りが遅くなって…。


右手に握った携帯電話の存在を、不意に思い出す。

電話をかけてみるか?
でも、もし切られたら?
出てくれなかったら?


「くそっ」


何であれ、三橋がいなくては後にも先にもオレは動けない。
情けないけれど、認めざるを得ない。

電話をして、探しに行こう。
何がなんでも謝って、連れ戻して、そして―。


「っざけんなよ、離してたまるか」

去年の春、オレがどんな思いでお前を捕まえたと思ってんだよ。


玄関へと引き戻しながら、三橋にダイヤルする。
絶対に終わらせないと決意してドアを思い切り開ける。



―ガンッ!!!



あまりにも強い衝撃と大きな音に、オレは本気で驚いた。
慌てて通路に顔を出すと、買い物袋を提げた三橋が右手で顔を押さえて唸っている。


「…三橋?!」


間の抜けたシーンを笑うかのように、三橋のポケットにある携帯電話が軽やかな着信メロディを奏でていた。


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あきゅろす。
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