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小説
『彼女の存在証明』

『シンデレラ』のパロディです
名前その他はなんと言いますか、ぶっちゃけ“なんとなく”で決めております。

そいでは、
はじまりはじまり。

☆…☆…☆

灰をかぶった娘さん
あなたの仕事はなんですか
掃除、洗濯、繕い物

こんなに大きな屋敷だもの
まだまだ仕事は終わらない

☆…☆…☆

彼女の存在証明

☆…☆…☆

シンデレラことシンディは、桶の中の洗濯物を見て盛大に舌打ちをした。

「まったく…クランベリーの染みは落ちにくいのに、何度言えば早く出してもらえるのかしら」

こうなったら意地でも落としてやると袖をまくる。

冷たい水をものともせず、まるでベテランのメイドのように洗濯板を駆使する彼女は、メイドではない。

シンデレラはれっきとした、この家の末娘である。

「ふっ…私の敵じゃあないわ!」

…れっきとした末娘である。
たとえ、すっかり染みの落ちた洗濯物相手に勝ち誇っていたとしても。

☆…☆…☆

シンディの母親は、良妻賢母の名が相応しい女性だった。
彼女は自分の手で家事をするのを良しとして、当時はたくさんいた使用人にまじって家のことをしていた。

幼いころからシンディはそれを見ていたから、今のこの状況にそんなに苦はない。

父親と再婚した継母は、派手好みで新しい物好きの人である。たくさんいた使用人も、考えが古いだの気に入らないだので辞めさせられて、その仕事は全てシンディのものとなった。

要は忘れ形見いじめである。

「シンデレラ! 繕い物はまだ終わらないの?」
「おはようございます、ベロニカお姉様。昨日のうちに終わっています」
「シンデレラ! スープが冷めているじゃないの!」
「申し訳ございません、クラリスお姉様。温め直して参ります」
「シンデレラ」

姉達によく似た、しかしだいぶ高圧的な声に警戒をする。

一昨日は部屋すみのほこり、昨日は銀食器のくもり。

さあ、今日はなんだ。
なんだろうが受けてたつが。

「ベロニカと、クラリス、それから私は明晩舞踏会に参加します。支度をなさい」
「…舞踏会、ですか?」
「王子様の婚約者を決めるのよ!」
「貴族や富豪の息女が集まるの! 私達もチャンスがあるわ!」

いや、ないんじゃあ…。
内心はどうあれ、やることはわかった。シンディはきちんと背筋を伸ばして返事をする。

「わかりました」

富豪の息女ならば自分も該当するが、不思議と興味は持たなかった。

☆…☆…☆

姉達のドレスに新しいリボンを縫いつけようと、シンディは街に出ていた。

いじめられてるのはわかっているが、どうせやるなら徹底的にやりたい。

これ以上にないくらい綺麗に飾って、綺麗なドレスを着てもらって、舞踏会を楽しんでもらうのだ。

一番嫌いであろう自分に、結局頼りきりの継母と義姉達。

あちらはどうかは知らないが、そういう三人をシンディはそんなに嫌っていないのだ。

「…もし、そこの娘さん」
「?」

声をかけられて振り返ると、道の端にうずくまる男がいた。

ローブで顔はわからないが、多分シンディとそう年は変わらないだろう。

「なんでしょうか」
「近くに仕立屋を知らないだろうか。店主はエバンスというのだが」
「…それは、ドレスも紳士服も請け負うという?」

マナ・エバンス。
異色の仕立屋と評判だ。なにせ男女どちらの服を、しかも部屋着から正装全てを仕立てる。

そんな女店主マナを、ここらでは“魔法使い”と面白おかしく噂している。

「ああそうだ。すまないが、グレンシアが呼んでいると伝えてほしい」
「わかりました」

どうやら具合が悪いらしい。シンディは大急ぎで仕立屋に走った。

☆…☆…☆

「まあグレンシア! いったいどうしたのですか」
「…行き倒れだ」

それから、と男はマナ・エバンスの左手を見た。

「なぜ手を繋いでいる」
「あら」
「あ…あはは…」

マナ・エバンスは想像していたより若い女性だった。伝言を伝えると大慌てで出てきてくれたのはいいのだが、シンディの手を離してくれない。

「わたくしとしたことが…申し訳ございません」
「まったく…好みを見るとすぐこれだ」
「好み…?」

だって、とマナ・エバンスはシンディをキラキラした目で見つめた。

「グレンシア! 貴方はこんなに艶やかな栗色の髪を見たことがあるのですか? プロの淹れた紅茶のような、透き通るような紅茶色の目は?」
「マナ」
「肌はきめ細かくて白くて…華奢でいらっしゃいますから、きっと派手に飾るよりシンプルなドレスがお似合いに違いありません…!」
「…マナ」
「ああそれとも甘い色合いでフリルを重ねたものでしょうか…こんなに可愛らしい方になにもせずに帰っていただくことなど万死に値します!」
「マナ・エバンス。頼むから俺の話を聞いてくれ」
「あら、ごめんなさい」

どうしよう変人だ。

マナ・エバンスはシンディの手を繋いだまま器用に男に肩をかし、にっこり笑った。

「わたくしはマナ・エバンスと申します。こちらは婚約者のグレンシア・グランチェスカ」
「はあ…シンディ・バルドレルです」
「ではシンディ様、どうぞお礼をさせてくださいませ。美味しいお茶をご馳走させていただきます」

☆…☆…☆

仕立屋の二階と三階がマナ・エバンスの家で、シンディはそこでお茶をご馳走になった。

「そうですか、お姉様方のドレスを」
「はい。リボンの飾りを作ろうと思って」
「舞踏会…もしや、城で行われるものでしょうか」
「はい」

シンディが頷くと、思案顔になったマナ・エバンスが食事中のグレンシアを振り返った。

「グレンシア。貴方が料理を作る舞踏会は」
「同じものだな。シンディさんは行かないのか?」
「興味がありません。それに、招待状もありませんから」
「……シンディ様、ではわたくしの付き添いをしてくださいませんか」
「え?」

実はと、マナ・エバンスがにっこりと笑った。

「明日の舞踏会には、隣国の王子様も御出席になるのです」
「?」
「隣国の王子様は、わたくしを贔屓にしてくださっているのです。そのご縁で、招待状をいただいています」
「えぇっ?」
「付け足すと、俺は料理人で、殿下は俺の腕もかってくださっている。一人連れていくくらい、許してくれると思うが」
「ち、ちょっと待ってください。私は、婚約者になりたいとかは」
「素晴らしく美味しい料理は?」

ピタリと思わず黙った。
素晴らしく美味しい料理。
最近自分で作った料理ばかりで、そういうのとは御無沙汰である。

「グレンシアの料理は、特にデザートは最高ですから、是非とも味わっていただきたいのです。面倒かもしれませんが、舞踏会に参加していただけませんか」
「……」

まあ自分が王子の目にとまるなどないだろうし、甘いものは好きだし。

「…よろしくお願いします」
「では、オーダーメイドでないのが残念ですがドレスを用意させていただきます」

うふふふふと笑うマナ・エバンス。そしてシンディは、“魔法使い”の異名の真意を知ることになるのだった。

☆…☆…☆

舞踏会当日。今日はこのまま眠っていいと言って、継母達は舞踏会に出掛けた。

シンディは着替え、いそいでマナ・エバンスの店に行く。

「ようこそいらっしゃいました。さ、これに着替えてくださいまし」
「は、はい」

淡い色合いのドレスは、なぜだかシンディにあつらえたようだった。なにせ、サイズがぴったりだ。

「…あの」
「ああ素晴らしい! いずれ、わたくしに貴女のドレスを仕立てさせてください」
「え、ええと?」
「では参りましょう」

部屋を出る前にシンディは見せてもらえなかった鏡を見た。

「…!」

なるほど“魔法使い”。
使用人のようなシンディはそこにはおらず、いつか見たきりの、バルドレル家のシンデレラがそこにいた。

ああならば、許されるなら。

シンデレラはここにいると、今日ばかりは示そうか。

忘れ去られた自分の存在を、周りに証明してみせよう。
















☆…☆…☆

時代その他は無視の方向でお願いします!

マナ・エバンスは以前書いたゲーム二次創作で作ったオリジナル登場人物です。

男女どちらの服も仕立てる型破りの仕立屋で、着るものならなんだって作ります。気に入った相手を見るとスイッチが入ります。ちなみにアンテナは男女ともに働きます。

グレンシアは料理人。なんだって作るのはマナ・エバンスと同じですが、一応専門はデザートです。婚約者の暴走に日々付き合わされております。

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あきゅろす。
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