小説 【突撃健康診断B】 魔術具を箱に詰め終えて、仙はふうと息をはいた。窓の外を見れば茜色で、1日も終わりが近づいている。 「…夕飯作るか」 正直面倒だが、自分で作らなければ夕飯は出来上がらない。 というか。 「ったく陣内先生にはびっくりだよ」 「逃げて良かったぁ。健康診断なんかされたら大変だもの」 「…お前らなぁ」 工房の隅、本来なら商談や打ち合わせに使うスペースには宴と月雅がいた。 「人が働いてるところに来たと思ったら“夕飯まだ?”っなんだ。うちは魔術具工房であって飯屋じゃない」 「家賃払ったら無一文」 「宴と蜂が仙のご飯美味しいって言ってたから」 元凶の顔を思い浮かべて深い溜息をつく。自分が拾われたからか蜂はやたらと厄介事を拾ってくる。 宴も最初はその中の1つで、生き倒れていたのを拾ってきたのだ。なぜか仙の工房に。 以来、本気で切羽つまると宴は蜂か仙の家に食事をしにやって来るのだ。 「…」 人付き合いに辟易して、わざわざ下級市民街の外れに住み着いたというのに。 「……はぁ」 「幸せ逃げるよ?」 「うるさい疫病神その2」 「そう言いながら台所に行ってくれる仙が大好きだ」 「大好きだー」 相手にするのも馬鹿らしくなり、仙は黙って支度を始めた。 食事をしっかり食べているからか去年から調子がいい。 いつ誰が食べに来てもいいように作っているからだと、絶対に認めまいと思った。 ☆…☆…☆ 「ほらーちゃんと作ってるじゃないのさー」 「…蜂」 なにと応える蜂に、陣内は頭を抱えそうになった。 「なんで画面に仙の家が映ってんのよ」 「偵察用魔術具忍び込ませたから。映り良くてびっくりした?」 「それを持ち歩いてるあんたにびっくりだわ」 作ってる時に邪魔すると怒るといって、蜂がいきなり鞄から鼠の玩具と小型の画面を出したのである。いくら友人の家だとはいえ盗撮は犯罪だ。 「灰神楽につきだすわよ」 「録画してないから問題ないですって」 「あんたねぇ…」 「さて、今なら夕飯に追加きくことだし行きますか」 「休肝日…」 「細かいことは気にしない方向でお願いします」 蜂は画面をしまうと、工房目指して歩き出した。陣内は仕方ないわねぇと呟いて続く。 どうやら賑やかな夕食になりそうだった。 [*前へ][次へ#] |