小説
【突撃健康診断A】
「月雅なら嫌な予感がすると、先ほど帰りましたよ」
「相変わらず勘のいいやつー」
蜂が呟くと陣内が小さく舌打ちをした。察知されたのがよほど悔しいらしい。
「まあ、いいわ。灰神楽、冷蔵庫見せて」
「は?」
許可を得ずに陣内が台所へと歩いて行く。後ろ姿が鬼気迫っているのを見て、灰神楽は黙って見送ることにした。蜂を見れば苦笑いを浮かべている。
「何事ですか?」
「突撃健康診断というか…南区の若いのが飯食ってるか確認?」
「…休診日だというのに仕事熱心ですね」
「ほんとにな。てか灰神楽って一人暮らしなのか」
室内を見回す蜂に、そういえば招いたことがなかったのを思い出す。
「姉夫婦が親と同居しています」
「へぇ…」
「君は家族を呼ばないのですか? 南区のほうが安全でしょう」
「全員故人」
「…失礼しました」
蜂は気にすんなと笑った。蜂については解らないことが多い。聞けば答えてくれるのかもしれないが、どこまで踏み込んでいいのかわからない。
「で、灰神楽って自分で料理とかすんの?」
「一応教師ですから、子供達のお手本として三食きちんと」
「…」
蜂が憐れみの目を灰神楽に向けてきた。言いたいことはよくわかる。
「報われねーのに頑張るとか凄いと思う」
「うるさいです」
「だって嫌われてんじゃん」
「違いますあれは俗にいう“嫌い嫌いも好きのうち”というやつです」
「…それ色恋用であって子供用ではねーよ」
可愛い教え子達を思い浮かべる。最近授業を受けてくれるようになったのだ、完全に嫌われていない。
「…当たり前のことで喜んでる気がすんだけど」
「大進歩のことで喜んでいます」
そんなことを話していると、陣内が台所から戻ってきた。
「食材は新鮮でバランスに片寄りはなし。今のところは最高得点ね」
「そうですか」
「もう終わりですよねー? じゃ、俺はこれで」
ガシッと蜂の襟首を陣内がつかんだ。
「月雅は捕まらないでしょうから、仙のとこに行くわよ」
「もー俺はいいでしょ!」
「なに言ってんの。二人揃って休肝日指導してあげるわ」
「鬼!」
☆…☆…☆
続く
「飲み過ぎるのがいけないんですよ」
「大した量飲めねーのに!」
「自覚あるなら控えなさい」
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