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こねことおおかみ/完結
亮平の気持ち






数刻前___











天気の良い中庭では、さらさらと肌に心地よい風と暖かな日差しが優しく芝を暖める


他に誰の姿もないそこで響くのは馨の運ぶ筆の音だけだ。

いつものように美術室に篭るのも集中出来て気に入っているが
それとは違って、外という開放的な空間で描く絵も馨は好きだった。


腰を下ろした日陰が少しずつ伸びていくのを感じながら、
ひたすら無心に筆を運ぶ。

すると遠くから サクサクと柔らかな芝を踏む音が耳に届き、馨はキャンバスから顔を上げた。


「また先生・・・」

少し離れたところにたつ壮一は笑顔でこちらへ歩み寄ってくる。


「今日はこちらですか。良い天気だと外が恋しくなりますからね。それより田原くん、都さんをみませんでした?武下先生からどうしても探して来いと仰せ付かったのですが・・・」


「にゃぁ」

「そうですか、見てないですか・・・」




「・・・いやどう考えても今のは俺じゃねぇし!」


「ふふ、知ってますよ」


尻尾が見えてます。

さっきより傍へ来た壮一からは馨の隣で気持ちよさそうに芝に寝転がる都が確認出来た。

くりくりと毛づくろいをする都。



壮一が都を連れて行こうと身を近づけ、ふと馨のキャンバスが視界に入る。



「あぁ、都さんを描いていたんですね」


そこには芝生でくつろぐ、今の姿のまま馨の優しいタッチで
色のついていない都が描かれていた。


「うん、時々描くんだよ。都は描かれてる時は大人しく動かないでいてくれるんだ。生きてるものを描くのは難しいけどね、都で修行中」


「そうですか。都さんはモデル猫だったんですね」

にゃぁと答えるように鳴く都に二人は笑った。






武下の命で都捜索にやって来た壮一だったが、
馨の絵が終わるまで都待ちをすることになった。


ふわふわと揺れるしっぽを見ながら馨はまた筆を走らせる

「あのさぁ先生」

「何でしょう」






「俺、行かないことにしたんだ」

「・・・留学しないということですか・・・?」

「うん」

「・・・・・・・・・」



キャンバスに向かう馨の横顔は変わらない。





「ほら、普通に大学の芸術学部でも十分絵は描けるしさ。立派な教授もたくさんいる。

 それに、俺一人で外国でやっていけるかっつったらなんか無理っぽいじゃん!?・・・・家族を置いていくのも心配だし。うちちびが二人もいるんだぜ?やっぱり長男として遠くに行くのもなぁ・・・・・って、思うからさ、だか


 「ちゃんと市村くんには話したんですか?」  ら・・・・・・」



馨の表情が固まる




それを見て壮一はため息を零した。



「・・・・言ってないんですね」

「・・・・・・」


「ちゃんと話すべきだといったでしょう?これは田原くんだけの問題ではないと思いますと」

それを聞いて馨はとっさに言い返す。

「りょ、亮平のことは関係ない!」




顔はキャンバスに向いているが、
その目は何も捕らえていない。



「俺が、俺が決めたことだから・・・」


だから、これでいいんだ



静かに告げた馨は静かに笑っていた。



泣いているような笑顔だった











「本当にいいんですか?」

「・・・・・・うん」

「自分に自信をもってそう言えるのですね?」


「・・・・・・・うん」





「田原くんが憧れていた画家の方にも、その意思を揺ぎ無く伝えられるのですね?」



「・・・・・・・・・」


さらに俯いた馨の顔は見えない






「・・・・・悩むのもわかります


 不安だという気持ちもわかります


 誰かを大切に思えば思うほど


 そのようなことも多くあります



 
 







 ですが

 


 そうやって割り切れるのですか・・・?

 

 諦めることが出来るんですか?」




震える小さな肩










「子供の頃からの夢だったのでしょう・・?」



「っ・・・・・・」



ぼろぼろと零れ落ちる涙は白黒の都を濡らしては流れていく







唇をかみ締めてそれでも泣くまいとする

そんな馨の頭にそっと腕をまわし、壮一は包み込むように抱き締める















キャンバスを流れていた涙は


優しい香りのするシャツをじんわりと濡らしていた


























「・・・・・かおるちゃん・・・?」











彼が現れるそのときまでは____




<*わんにゃん#>

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