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「…!」
ルームのドアがスライドして、フロアの景色が目に飛び込んでくる。
しかし、そこに思いがけないものを見てしまった。
「ねぇそれって、すごく値段が高いことで有名な洋食店じゃないの?」
「そのぶん味は確かだぞ、と」
「最後の最後に、払えないから割り勘とか言わないでよね」
フロアを横切ったのは、目立つ紅髪の黒スーツの青年と、
背のあまり高くない数ヶ月前より少し長くなった赤みがかった髪を跳ねさせる少女。
こちらに気付いた様子はなく、フロア中央の吹き抜けの向こう側を通り過ぎるその姿。
あの日からしばらく眠っていた衝動が、蘇るのをザックスは感じた。
彼等はそのまま、何やら話しながらエレベーターに乗り込む。
ドアが閉まる前、レノはちらりとザックスのほうを見た。
睨み付けるようなそれに、思わず気圧される。
しかしそれと同時に、何かに気付いた様子でナマエが振り返った。
「ッあ…」
一秒にも、満たないかもしれない
互いの視線がかち合った。
しかし、時とは慈悲ないものである。その数秒さえも惜しむように
エレベーターのドアは、すぐに閉まってしまった。
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