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「なんて、冗談冗談。可がお前みたいに柔軟になればなぁと思ってさー。お前好きな奴いるんだもんなぁ」
「ちょ、驚かさないで下さいよ…天子様も、頑張って下さいね」
「おぅ!」

ぶんぶん手を振る天子。
なんだかんだ言って、俺も結構面白かったかもしれない。
まあ、子守りしてる気分だったとでも言うのか。
そういうわけで、俺は仕事場に戻ろうとした。

「…っお前!」

突然、腕を掴まれる。
驚いて見ると、其れは紛れもなく劉可だった。

「お前、楓に何した!」
「…劉殿に……?」

劉殿とは、昨日から会っていない。何かしたかと言われると、何もしていない気がするが。
思いあたる節が無い。

「…楓、殴っても叩いても泣いたりしないんだ。よっぽどのことしないと、あんな…」

…待て、話が見えない。
泣いてる?誰が。…劉殿が?

――『こういうことされて哀しい奴がいるっていうの、分からないのか!』

今さら、天子の言葉が突き刺さった。
哀しい?――俺が、哀しくさせている、のか。

「…あいつを泣かせていいのは、私だけだから。ちゃんと話を付けて来るんだね」
「…っ、」

何気ない弟虐め鬼畜発言はさておいて、いま劉殿が哀しんでいるのなら、其れは俺が嫌だ。
いますぐ、彼を見つけなければいけない。
前に一度、泣かせたことがある。其の時に感じた心苦しさの比じゃない。俺の前でしか、泣かない人なのか。
俺は走り出そうと足を踏み出した。
ああ、そうだ。

「劉可さんも、貴方の知らない間に泣いてる人がいるっていうの、知ってて下さい!」

其れだけ言い残して、いつも劉殿がいる部屋に向けて走り出した。

「……天子?」

劉可は呟いた。
そのまま軽く笑うと、天子邸へ歩き始めたようだった。





――…。
いない。此処にはいなかった。

「劉さんなら、蔵へ行くって言ってましたけどね」

同室で書き物をしていた官吏が言う。
蔵といえば、天子邸の前を通らなければ行きつかない。もしあの会話を部分的に聞いたなら、誤解必至だろう。
哀しませているのは、やはり俺だったのだ。蔵へ向かって無いとすると、自室かもしれない。
俺は外から通っているためあまり内部のことは知らないが、劉殿のことなら話は別だ。変態でも何でも罵るがいい、今は其れが役立っている。

昼間は誰もいない、棟。
急いで廊下を走り、扉を開いた。

「楓…!」
「っ!」

其処に彼は居た。
余程びっくりしたらしく、びくりと肩を震わせる。


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