5 「なんて、冗談冗談。可がお前みたいに柔軟になればなぁと思ってさー。お前好きな奴いるんだもんなぁ」 「ちょ、驚かさないで下さいよ…天子様も、頑張って下さいね」 「おぅ!」 ぶんぶん手を振る天子。 なんだかんだ言って、俺も結構面白かったかもしれない。 まあ、子守りしてる気分だったとでも言うのか。 そういうわけで、俺は仕事場に戻ろうとした。 「…っお前!」 突然、腕を掴まれる。 驚いて見ると、其れは紛れもなく劉可だった。 「お前、楓に何した!」 「…劉殿に……?」 劉殿とは、昨日から会っていない。何かしたかと言われると、何もしていない気がするが。 思いあたる節が無い。 「…楓、殴っても叩いても泣いたりしないんだ。よっぽどのことしないと、あんな…」 …待て、話が見えない。 泣いてる?誰が。…劉殿が? ――『こういうことされて哀しい奴がいるっていうの、分からないのか!』 今さら、天子の言葉が突き刺さった。 哀しい?――俺が、哀しくさせている、のか。 「…あいつを泣かせていいのは、私だけだから。ちゃんと話を付けて来るんだね」 「…っ、」 何気ない弟虐め鬼畜発言はさておいて、いま劉殿が哀しんでいるのなら、其れは俺が嫌だ。 いますぐ、彼を見つけなければいけない。 前に一度、泣かせたことがある。其の時に感じた心苦しさの比じゃない。俺の前でしか、泣かない人なのか。 俺は走り出そうと足を踏み出した。 ああ、そうだ。 「劉可さんも、貴方の知らない間に泣いてる人がいるっていうの、知ってて下さい!」 其れだけ言い残して、いつも劉殿がいる部屋に向けて走り出した。 「……天子?」 劉可は呟いた。 そのまま軽く笑うと、天子邸へ歩き始めたようだった。 ――…。 いない。此処にはいなかった。 「劉さんなら、蔵へ行くって言ってましたけどね」 同室で書き物をしていた官吏が言う。 蔵といえば、天子邸の前を通らなければ行きつかない。もしあの会話を部分的に聞いたなら、誤解必至だろう。 哀しませているのは、やはり俺だったのだ。蔵へ向かって無いとすると、自室かもしれない。 俺は外から通っているためあまり内部のことは知らないが、劉殿のことなら話は別だ。変態でも何でも罵るがいい、今は其れが役立っている。 昼間は誰もいない、棟。 急いで廊下を走り、扉を開いた。 「楓…!」 「っ!」 其処に彼は居た。 余程びっくりしたらしく、びくりと肩を震わせる。 [*前へ][次へ#] |