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彼は床に座っていた。驚いた拍子に此方を見たのだが、俺の顔を見るなりぼろぼろ涙を溢す。
余りにも可愛いからそのまま押し倒しそうになったが、其処まで酷いことはするものかと理性を保った。
「…っ、あ…」
何か言おうとしているようだが、うまく言葉に出来ないようだ。
とりあえず、何をしたらいいかわからなくて抱き締めた。
「…、やめ…っやだ…」
ぐ、と腕で押し返そうとする楓。
拒否されるとアホみたいに凹むが、気落ちしている場合じゃない。
押し返されないように、痛いかもしれないけど、ぎゅーっとする。押し返せないと分かった楓は、諦めて力を抜いた。
「楓、泣かないで」
「……っできな、い…」
「…?」
彼は涙声で言う。
「なんで哀しいのか、分からない、から…止まらない…」
腕の中で震える楓。
聞いていると、疑問がぽっかり浮かんだ。
此の人は俺のことどう思ってるんだろう。分からない、ってなんだ?俺に怒ってるんじゃないのか?
彼は鈍感だと思うが、自分もそうだ、と自嘲した。
兎に角どうにかせねばならない、困惑してるだけじゃ話が進まない。
とりあえず椅子とかに座らせようと中腰になると、楓に裾を引っ張られた。
「うわ、っと」
「あ……」
ぱっと手を放される。
笑って、何処にも行きませんよ、と言うと、少しうつ向いた。
抱き上げて椅子に座らせると、突然ぶにーと頬を引っ張られる。
「い…何すんですか」
「ばか。お前なんかどっか行っちゃえ」
「行きません」
「なんで」
「貴方のところにしか、居たくありません」
「冗談ばっかり」
「…冗談じゃ、ありません!」
この人は、また俺の想いを汲もうとしないのか。
思わず語尾を荒げる。
と、濡れた眼でキッと睨んできた。
「そんなことばかり言って、お前は無責任だ。…私が、どう思ってるかも知らないくせに」
「…無責任?」
「言うだけ言って、中身が無いじゃないか」
「…そんなことありません。じゃあ、劉殿はどう思ってるんですか」
視線は反らさず、じっと見つめる。
しかし彼は視線を外し、長い睫毛を伏せた。
「…きらい」
「…。なら、仕方ないですね。好きな人に嫌われるくらいなら、もう何も言いません」
「………ばか」
「…馬鹿ってなんですか」
怪訝に思って覗き込むと、またぼたぼた涙を落としている。
――泣かせたい、わけじゃないのに。
「…嫌いな奴と、…四六時中一緒に居たりすると思うのか、お前は」
「…俺なら、思いませんけど」
「――それなら、」
哀しみに濡れた瞳が、真っ直ぐ俺に向けられた。
「それなら、私の気持ちが分からないか!?嫌いなわけないだろ、其れぐらい気付け!」
…凄く、変な顔をしてしまったと思う。
此れは、告白と取ってもいいのだろうか。
「あの、劉殿は俺のこと好きだったんですか?」
「私も今知った!」
「なんだそれ…」
当の本人も、何とも言えない顔をしている。
――でも、なんだか其れがおかしくて、笑ってしまった。
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