シスター&ブラザー!
その姉、会話す。
「青春おーでーんー♪」
「…うるさい」
「なによ、私の美声が聞けて嬉しいくせに。感謝しなさいよ」
そんな音程外れた歌なんか、聞きたくもないわ!!ふさげ、その口を。
シスター&ブラザー!
「はぁあ〜……」
「なんか疲れてんな、鬼道のやつ」
「相当疲れてるのか分からんが、昨日自分のゴーグルを叩きつけてたぞ」
「…そうなのか?」
「なんでも美咲さんに、『まじキモい。次郎みたいに眼帯にしなさいよ。つかそれなんの意味あんの?』とかなんとか言われて散々弄られたみたいだ」
「なんか可哀相だな」
それだけじゃない、散々音痴な歌を聞かせられたんだぞ。俺は!前に春菜があんなに可愛く歌ってくれたのに、美咲のせいでまったく思いだせない。全部美咲の音痴な歌に聞こえてしまう。
ごめんな、春菜。こんなお兄ちゃんで。
あぁーイラつきが止まらん!
「おい、そこのデコっぱち。ムカつくから殴らせろ」
「なんで俺だけ!?源田は?…ってまじ?いや、やめてぇええ!」
「鬼道………」
「おい、源田!見てないで助けろよ!
…ちょ、鬼道さん!タンマァアア!!ぎゃぁあああ」
「美しくない断末魔だな、このデコめ」
喚く辺見を無理矢理押さえ付け殴り続けていたら、辺見を白目になるまで痛めつけてしまった。やりすぎた気もするが、辺見だし別に大丈夫だろう。
ストレスも発散された気がする。
「鬼道、そんなに美咲のこと嫌いなのか?」
「嫌いというか、関わりたくないのにあっちが突っ掛かってくるからな。別に被害を受けなければ普通だ」
「結構頑張ってくれてるんだぞ、毎朝朝練のあともおにぎりでるだろ?
アレ、俺たちよりも早く来て作ってるみたいだし」
「………そうだな、昆布のバリエーションも増えたしな」
「この前から言ってるが、その昆布ってなんだ?」
「あんまり気張らないで、
美咲さんと、ちゃんと話してみたら、なにか変わるかもしれないぞ」
源田は「頑張れ」と優しく微笑んで、俺を見ると、辺見を担ぎあげ保健室へと連れていった。
前から面倒見がいいし、ゴールキーパーで、チームのメンバーのことはちゃんと観察している源田のアドバイスには何度も助けられた。
「…仕方ないな、行くか」
俺は、教室から出て、三年の棟へ向かった。
*************
「あら、あれって、鬼道様?」
「やだ!こんなとこで見られるなんて!」
なにやらキャアキャアと喚く女子が、昼休みの私の睡眠を邪魔する。
うっすらと頭が回転しない中、顔を上げるとそこには、愛しき弟を魅了してくれちゃった私の敵・鬼道有人が立っていた。
「…おはよう」
「あ、おはよう。ていうかなんで居るの?」
「お前と話をしにきた」
「へぇ、そうなんだ〜!……って、なんでよ!」
「マネージャーとキャプテンが話すのはそんなに、おかしいことか?」
鬼道は眉間に皺を寄せて、私の前の席に座った。
前の席が誰だかなんて覚えていないけど、なにやら後ろで「鬼道様が私の席にぃいい!きゃぁぁああ!」とか叫び声が聞こえた。なんで、こいつ、こんなにモテモテなの?たしかに昨日ゴーグルを取った時は、かっこよかったけど……
「どうした?」
「いや、べつに…」
「場所、変えるか?なんだか騒がしくて、落ち着かない」
「…あんた、なんでそんなに話したいわけ?まさか私を手懐けて、次郎を「俺にそんな趣味はない」
「あぁ、あんた受け?」
「俺はノーマルだ!」
よかった、私、源佐久派だもん。
…じゃなくて。
なんだか、「あの人はなんであんなに親しげなの?」「鬼道様のなに?」とか後ろのギャラリーから、噂が立ちそうな予感がするし、やっぱり移動した方がいいかもしれない。次郎に勘違いされたら困る。お姉ちゃん、次郎だけだよって約束したもんね。
「おい、早く移動するぞ
お前と噂が立つのはごめんだ」
「わかってるわよ」
取りあえず、敵を知ることが勝利への近道よね。
私は、先を行く背中を追い掛けた。
その姉、会話す。
(何話すの?)
(……何も考えていなかったな)
(じゃあ昆布の話でもしましょうか)
(嫌だ)
、
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