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世界はキミのもんだ!
世界の成分(複数)
日本で行われる世界会議の会場に足を運ぶことは、もはや当たり前の行動になっていた。いたからといって特にやることはないのだが、以前より仲良くなれた国の方々とお話するのを楽しみにしていたりする。

今日も何ヵ月振りの会議に特別に参加させていただいている。会議中には会議室に入れないため、私は他の部屋で待機していた。
今日はどんなことを聞いてみようか。そんなことを考えていたときだった。
がちゃりと背後の扉が開かれた。

「桜、来て」
「え、ギリシャさん? 会議中では…」
「ん…来て」
「あ、あの…!」

いきなり現れたギリシャさんに俵担ぎにされたかと思えば、そのままどこかへと運ばれる。止めようにも暴れればギリシャさんの肩から落ちるかもしれない――鍛え上げられた身体のギリシャさんならそういうことはなさそうだが――し、何より着物の裾が捲れてしまうのではないかと思えば無闇には動けないのだ。
諦めてギリシャさんに身を任せれば、彼は迷いなく一つの部屋へと足を向けた。
そこは――

「桜さん…!」
「日本さん!?」

世界各国が揃う会議室。一番初めに目に入ったのは、アメリカさんに羽交い締めにされた日本さんだった。彼の表情には焦りが浮かんでいる。

「ギリシャさん、桜さんを連れてくるなんて…!」
「…日本、怒ってる? 遺憾?」
「怒るに決まっているじゃないですか! 激怒ですよ、激怒!!」

何故ここに連れてこられたのか判らない。珍しく声を荒げる日本さんの姿も目にしてしまっては、状況を読み込むことすら不可能なほどに混乱してしまう。
ギリシャさんは放心状態の私を近くのイスに座らせ、私と目線を合わせるように目の前にしゃがみこんだ。そして、私の手を握り一言。

「桜、うちにくる?」
「……え?」

その言葉を皮切りに、周りでそれを傍観していた各国の方々が私に詰め寄ってきた。
私が日本語しか判らないのを気遣ってだろうか、様々な発音の日本語が耳に飛び込んでくる。

「それよりお姉さんのところにこない? 可愛い子は大歓迎よ!」

ギリシャさんを押し退け、ふわりと柔らかそうな髪の毛の女性が爛々とした瞳で私を見つめる。混乱に合わせて目を泳がせれば、やーん可愛いー!、と抱き付かれた。

「あ、あああのっ!?」
「おやめなさい。困っているでしょう」
「オーストリアさん!」

メガネを掛けた男性が女性の身体を引き剥がす。
文句を言う女性を気にすることもなく、オーストリアさんと呼ばれた彼は一枚の紙を差し出した。戸惑いながらも受け取れば、それは年代物の楽譜だった。流れるような文字は芸術的過ぎて読めないが、恐らく外国の言語なんだろう。
これをどうしろというのか。ちらりとオーストリアさんに視線をよこせば、優雅な笑みが返ってきた。

「音楽に興味はおありで?」
「え、あ、少し、なら…」

こう見えても一応は日本国の重役の娘。それなりの教育を受けてきたお陰でピアノくらいなら弾くことが可能だ。
その返答に満足そうに頷いたオーストリアさん。
しかし、すぐにその身体は押し潰され、乗り掛かるようにしてこちらに笑顔を向ける男性が。

「なるほどねえ、物で釣るってのもありだよな」

うんうん、顎をしゃくりながら自問自答した男性は、唐突に私の肩を掴む。

「和食には飽きたんじゃない? フランス料理はどうだい?」
「フ、フランス…?」
「そう、フランス! お嬢ちゃんのためならお兄さん頑張っちゃうよ!」
「どけ、フランス」
「ひどい!」

迫ってきていた彼の顔を乱暴に押し退け、代わりにこちらに視線を向けたのは、鋭い瞳の男性だった。そのきつい瞳に気圧されて竦み上がってしまう。
しかし彼は意外にも優しい手付きで私の頭を撫でた。
思わず顔を上げれば、難しそうな顔でこちらを見つめる彼が見える。

「妹はいらないか」
「え?」
「スイス! お前興味なさそうだったじゃないか!」
「我輩はな。リヒテンシュタインがこいつのことを気にしているのだ」

わけが判らない。家に来いだとか音楽はどうかだとか、料理に妹にと重ねられる言葉にますます頭が混乱していく。

「え、あの…えっと…」

曖昧に言葉を返しても話に何ら進展はない。
私にどうしろと言うんだ。いっそのこと泣いてしまいたい。そんな後ろ向きな考えが頭を支配していたときだった。

「えーい、放しなさい!」
「うわ! に、日本…!」

アメリカさんに押さえ付けられていた日本さんがその腕を振りほどき、各国の壁を押し退けて私を庇うように立ちふさがる。

「何ですかあなた方は! みんな揃ってじじいをいじめて楽しいですか!?」
「いや、別に日本はいなくてもいい。用があるのはこいつだけだからな」

スイス、と呼ばれていた男性が私を指差す。
何か悪いことでもしてしまったのか。最近少しはしゃぎすぎたのが気に食わなかったのかもしれない。日本さんに何か影響があったらどうしよう。
一気に不安度が臨界点を越す。日本さんのスーツを握り締めて見上げれば、苦笑のようで苦笑でない返事が返ってきた。

「桜さんに問題はありませんよ。皆さんがあなたを家に招待、あるいは移住させたいとか言い出しまして…」
「……え?」

予想もしてなかったことに思わず間抜けな声が漏れる。

「桜さんは何も考えなくて大丈夫です」

国民一人、私が守れなくてどうしますか。

普段はあまり聞くことのない強気な発言に胸が熱くなる。

大丈夫ですよ、日本さん。私はずっとあなたについていきますから。









世界の成分
(あなただからこそ、なのです)



―――

少し似通った話に…登場していないお国を出そうとした話ですので、少し読みにくいかも?

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