[携帯モード] [URL送信]

世界はキミのもんだ!
言葉の壁、崩壊させます(アメリカ)
「ヘイ、桜! 会いたかったんだぞー!」

後ろからガバッと抱き付かれ、前につんのめりそうになるのを何とか堪える。振り返れば、アメリカさんが満面の笑みを浮かべていた。
欧米では接吻なんて挨拶のようなものだし、抱き締めることは呼吸に等しい。スキンシップが日本国よりもかなり激しく、初めのうちは照れてばかりだったけれど、最近は様々な文化の方々と交流を交わすうちに慣れてしまった。日本人の順応性のお陰だろう。

「アメリカさん、お久し振りです。…もしかして少し日本語練習されました?」
「判るかい!?」
「はい、努力されたんですね」

綺麗、とまでは言えないが、前よりはかなり改善されていて聞き取りやすい。相当な苦労をされたのだろう。
アメリカさんは青い瞳をキラキラさせ、今にも飛び上がりそうな様子である。親に褒められた子供みたいな純粋な反応に、こちらも何だか心が温かくなる。
しかし次の瞬間、アメリカさんの口から飛び出た言葉に、私は言葉を失ってしまった。

「これはいたみいりますー!」

武士言葉。
日本国にまだ侍が闊歩していた頃に、侍達が日常的に使用していた言葉。今の時代では使われることなどほぼなく、聞いたときには驚きで硬直してしまうだろう。第一、この言葉を知っている人がこの時代にはそうそういない。
ぽかんと固まってしまった私を見て、アメリカさんは不思議そうに首を傾げた。

「あれ、間違えたかい?」
「い、いえ。使いどころは間違えていませんが…随分と古い言葉をお使いになるのですね。それ、古過ぎてもう使われない言葉ですよ」
「そうなのかい!?」
「はい。武士言葉といって侍が使ったものですから」

武士言葉だと知らずに使用していたらしい。確かに、最近の外国人向けの日本語を学ぶ教材には間違えたことを教えているのもある。

「うーん、日本に教えてもらったのになあ…」
「日本さんにですか?」

それはおかしい。日本さんは何と言っても我らが祖国。日本語を間違えるわけがないのだが。

「まあいいよ! それよりも前より話しやすくなったかい!?」
「はい、とても」
「イギリスよりも!?」
「イ、イギリスさんですか? 最近あまりお会いしてませんからねえ。でもアメリカさんの方が上手いと思いますよ」
「本当かい!?」

やったー!、と大きな声を上げた後、頬に接吻される。
驚きで固まる私を尻目に、アメリカさんはそれはそれは嬉しそうに言葉を紡いだ。

「お慕いしておりますー!」

何か違う。
惜しいけど何かが違う。



言葉の壁、崩壊させます


――

しばらく続きます。

[*前][次#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!