世界はキミのもんだ!
言葉の壁、増築させます(日本)
ほのぼのとしているはずの空気の中、私は湯飲みから立ち上る煙を見つめていた。
隣に日本さんが同じく正座しているのだが、最近疲れているのだろうか、何だかピリピリした雰囲気のように感じ、なかなか口を開けずにいるのだ。
何か話題を考えなくては。そう思うが上手く頭が働いてくれない。当たり障りがなくて、少しでも会話が弾むような話題――
「…先日、アメリカさんに出会ったんです」
「そうですか」
いつもと違い、短い返答しか返してこなかった日本さんに少し不安が膨らむ。しかしここで話をすぼませてしまっては意味がない。私は再び口を開いた。
「随分と久し振りにお話しさせてもらったんですが、いつの間にか日本語の練習をされてたようで…以前とは見違えるくらい綺麗な日本語でしたよ」
「へえ、アメリカさんがですか…」
「はい。でもたまに変わった言葉が混ざってて…あ、そういえば日本さんに教えてもらったとおっしゃっていましたが」
そう話を振った瞬間に空気が変わる。先程なんか心地いいものだったと思えるくらいの異様な圧力に、私は日本さんの横顔を見つめたまま固まってしまった。
やがて、日本さんの視線がこちらに向けられる。その瞳は本当に何を考えているのか想像出来ないような色に染まっていた。
「はい、私が教えました」
「な、何で古い言葉を…?」
そう問えば、日本さんはくすりと柔らかく微笑んだ。仕草はいつもと変わりないのに、何だか不穏な雰囲気だ。
「アメリカさん、桜さんともっとお話ししたいから、と日本語を勉強されてたんです」
「え…」
思わず間抜けな声が洩れる。パチパチとまばたきを繰り返せば、日本さんはおかしいといった様子でクスクスと笑いだした。
「すみません、あまりにも可愛らしくて」
「!!」
ぼっと火が出そうなくらいに顔が熱くなる。それを見て更に笑いだした日本さんは、再び謝罪の言葉を口にしながら言葉を付け足した。
「こうやって桜さんとちゃんと話せるのは私だけなのに、わざわざそれを邪魔する存在を作るのもイヤですから」
あなたとちゃんと話せるのは私だけでいいんです。
本当にこの人は言葉が上手すぎる。そんな言い方されたら期待してしまうのに。
そう思いながら、赤くなった顔を隠すように俯いた。
言葉の壁、増築させます
―――
前の「崩壊させます」に続けて。日本さん嫉妬してたらいいよ。
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