類は友を呼んでいる‐01
───この頃校内が異様だ。
全体的に、というよりは一部分が特にそうなのだけど、落ち着きがなくて何かに備えているようにも見える。
けれども世間の催しやカレンダーで日付を確認すれば、その異様さの答えがあった。
「……バレンタインデーってさ、聖人の記念日だよな。決してチョコレートの日とかじゃないよな」
「うん。『三世紀にローマで殉教した聖人バレンタインの記念日。この日は相愛の男女が愛を告白し、カードや贈り物を取り交わす』そんな日だね」
机に肘を乗せて教室の中を眺めながら言うと、斜め前にいる伊織が辞書の内容と同じことを返してくれた。
前の席でいつも通り体を横に向けている多貴は「男女限定かあ」と言うわりに、その言葉については心底どうでも良さそうな表情である。
カードや贈り物、とは言うけれど。いつの間にか聖人バレンタインの記念日はチョコレートの日に変わっているような気がしなくもない。
どこもかしこも商品はチョコレート。相愛と称えても、片想いのどちらかが告白をするか、本命だの義理だのと銘打ちチョコレート関係の菓子を贈り、ホワイトデーには三倍返しという鬼畜っぷりである。
でも相愛と言っても色々で、友チョコなるものが生まれたら、友情の相愛でも特に語弊はないとは思う。家族愛についてもそれは同じだ。
個人的にはチョコ関係のスイーツ限定新作が出るのだから、甘いもの好きには困らない日ではある。
「世間には関係ないのかもしれないね。聖人の記念日って知っているかどうかすら怪しい場合もあるし」
「ところで何でそんな冷めてるんすか」
黙って聞いていた幸丸が首を傾げた。
HR前の時間、朝っぱらからこんな話をしていれば確かに冷たいかもしれないけど、バレンタインデーという日はある意味テストより周りが恐いのだ。
バレンタインだからと許されるわけでもないのに普段大人しいのに覚悟を決めたら恐いのだ。恋する乙女(男)とはそういうものだ。
例年何があるんすか、と苦笑いする幸丸に伊織が微笑みを返した。
「普段隠している本能が剥き出しになる日とでも言っておくよ」
「なにそれ恐っ」
さらりととんでもない事を言う伊織の言葉の意味を想像したのか、ドン引きした幸丸は今まで気にしていなかったらしい周りの雰囲気が恐ろしくなったらしい。
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