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03
 


 菓子を作ることに後ろ向きだったのに瞬時に気持ちが前を向いた会長は、興味津々なご様子。
 何度も言うが今日の会長は大変愉快である。

 会長は自宅の広いキッチン(調理場と言われたけど)を使っても構わないと言っているけど、教える側としては行ったことない会長の自宅は無駄に神経を磨り減らしそうだから却下。



「慣れてる方がいいから俺の実家な」
「良いのか」
「基本的なこと教えやすいし、正直プロが居る調理場は気が引ける」
「居るには居るが、そう気にすることでもないだろう」
「そりゃ会長は住人だからね」
「……」



 冷たくなっても美味しい紅茶を飲み干し、最終下校が近付いているのを時計で確認した。



「ご馳走さまでした。こういうプロの味は無理だけど、素朴でも手作りの良さを学ぶには良いと思うし、バレンタイン前に時間作れる日を連絡して」
「……ああ、分かった。いつも悪いな」
「そう言うならさっさと円満になってくださーい」
「……」



 それじゃ、と鞄を持って扉へ向かうと会長も着いてくる。
 開け放たれた扉の前、気を付けて帰れ、という会長からの珍しい言葉を聞いて生徒会室を後にした。



「……俺に素直になるんじゃなくて蒼司に素直になればいいのに」



 照れ屋がエスカレートするとああなるのかな、と考えていると、携帯が震えた。
 瀬戸からの電話でタイミングの良さに笑う。



「もしもーし」
『帰りか?』
「丁度終わって今下駄箱」
『長い』
「ほんとそれ。外にいんの?」



 電話口の向こう側が少し騒がしくて聞いてみると、肯定が返ってくる。



『校門前にいる』
「まじかすぐ行く」
『転ぶなよ』
「いえす!」



 くすり、と笑う声に、あーこいつ格好いい。と思いながら通話を切った携帯をポケットに滑り込ませて外靴に履き替え小走り。

 校門を出てすぐ横に、私服姿の瀬戸がいて流れるように勢いで抱き着いたら躊躇いなく抱き返された。



「いけめんかよー」
「なんだ急に」
「見計らうかのような電話にお迎えとかさー、惚れるから」
「もっと惚れろ」
「限界突破も辞さない」
「突破してんのか」
「軽快に上昇中」
「なんだそりゃ」



 ああ落ち着く。
 低い含み笑いで揺れる体に、鳩尾辺りがきゅんとした。



 

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