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03
 


「やりますかー」
「ああ、頼む」



 一息ついた所で菓子作りを始めようと声を掛ければ、キッチンへ入ってきた会長が腕捲りをしながら頷いた。
 まず手を洗ってもらい、最初にクッキー、焼いている間に型チョコを作る、と軽い説明をして作業に取り掛かる。
 作っている間瀬戸は暇なので、TVを点けてぼんやりしている。あとでベタベタに構おう。



「ほい、じゃあ先に溶かした無塩バター、卵、砂糖は少な目にして、泡をたてず白っぽくなるまで混ぜて、ふるいで粉もの加えてさっくり切るように混ぜる」
「切る?」
「炊いた米を混ぜたことあります?」
「ある」
「そんな感じ」
「ああ、分かった」



 流石理解が早い。大雑把な説明なのに聞かれた事が混ぜ方だけとは。
 バターは溶かしておいたけど、溶かし方も加減も説明したら、ケーキ作り用の塩が入っていないバターが市販されているのは買い物で知ったらしい。

 料理初心者な会長ではあるものの、言えば言ったことをそのまま実行して、疑問があれば止まってすぐに聞いてくる。
 素直でやりやすいなー。



「…ぼろぼろになってきたぞ」
「いいのいいの。それを今度は素手で纏める。 …こうやってクッキングシートを敷いて、纏めていくうちに今くっついてる生地も取れていくから、気にしないで捏ねて」
「……これくらいで良いのか」
「うん。綺麗になっていくから、じっくりやって、愛込めて」
「……は?」



 ぴたりと捏ねる手が止まったので手元から上へ視線を移すと、会長は「何いってんだコイツ」という目をしていた。



「好きな人に贈るものでしかも料理だろ?その人への気持ちの分、美味しくなれって愛情込めるだろ」
「……そういうものなのか」
「瀬戸ー、料理って愛情込めるよなー?」



 疑っている会長を納得させる為、ダイニングテーブルで頬杖をついていた瀬戸に話を振ると、俺を見た瀬戸が会長に視線を移して真面目な顔で言った。



「俺もやってる」
「……お前料理作るのか」
「少なくともアンタよりはな」
「……」
「はい、じゃあ愛情込めて綺麗に纏めてくださーい」



 瀬戸が料理をすると思っていなかったのか、何故か敗北者のような表情をした会長は気を取り直して生地に向かう。
 捏ねている途中でチョコチップを混ぜ込ませ、偏らないように纏めてもった。


 

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