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 このままバレンタインに本命宛のチョコ菓子を贈っても、蒼司からすれば『会長が周りの流行りに乗って渡した』としか思わないのかもしれない。

 会長にとって本命でも、蒼司からしたら義理と同じ。
 なぜならスタートで印象がマイナス、加えて会長の自信過剰さと不器用さ、根っからの恋愛初心者、プライドの高さ等々であらゆる弊害を生んでいるから。
 悪い印象はすぐには変えられないし、そもそも抱きやすいものだ。
 会長が普段蒼司に対してどう接しているのか、蒼司はどう接しているのか、毎回そこに居るわけでもないし事細かに聞いているわけでもないから分からない。



「なんでそう面倒な方向になるんだか」



 会長自身、俺に迷惑をかけている自覚はあるらしい。

 以前「なにか奢る」と言ったからか負い目からか、一般高校生では手を出せないような高級な洋菓子が茶請けとして一緒に出されたわけで。
 なんでも副会長の実家は高級和洋菓子の老舗らしく、俺が好きそうなものを送ってもらったらしい。和菓子が大半だが洋菓子も扱っているのだとか。

 紅茶に合った控えめな甘さで口当たりも良い。一口大のそれを咀嚼しながら、この立ち位置に居なかったら一生味わえないだろうなと思った。



「チョコ渡すってさ、市販品?」
「作れないからな」
「んー、じゃあ、作るか」
「……は?」



 温くなった紅茶を一口含むと、菓子の味と馴染む。あー、美味しい。
 顔を上げた会長は、普段の無表情からは想像に難しい見事なアホ面だった。



「会長のアホ面レア度ってかなり高いよなあ」
「お前さっき作るって言ったか」
「うん」
「その…菓子を?」
「うん」



 そういえばお坊ちゃんな会長は、自分で菓子を作って誰かに渡すって事は経験がないのかも。
 視線をさ迷わせる会長は大変愉快だけども、作ったことがないなら尚更作らせたいのが俺の性格である。性格が悪いとは言わせない。

 あまり乗り気ではない会長を乗せるため、ぐるりと思考を回した。



「……蒼司は会長が料理作らないの知ってる?」
「そういう話をしていないから分からん」
「まあ、作らないと思ってるって仮定して、そんな会長が蒼司の為だけに菓子を作ったって知ったら少しは見直すかもよ」
「どこで作るんだ」



 あー、蒼司の事に関してはとても乗せやすくて助かる。



 

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