06
ちょっとよく分からない言葉が聞こえた気がして、思わず「もう一回」と促すと香川は再び「ストーカーになるの!」とやっぱり理解不能な言葉を叫んだ。
「迷惑はかけない、気配も消す、周りに関わらない。ただ姫ちゃんに何かあった時、影から守れるよう」
「いらねぇ」
「えっ」
「いらねぇ」
いやそんなショック受けた顔されても。
「ストーカーします、はいどうぞって誰が言うかアホ。存在が迷惑とは言わねぇけど公言してる時点で潔くてもダメ。アウト」
「迷惑言ってる……。だって、好きなんだよ!」
「やって良い事と悪い事があるだろ。なにストーカーって。行き先おかしいだろ」
「そうですけど…!気がすまないっていうか、また同じことやりそうで…」
「我慢の果てに奇襲とか最悪だな」
「……すみません」
「許しません」
うっ、と声を上げた香川は、しかし引き下がらないというか撤回する気はないらしい。どうしようかと思っていると、隣からため息が聞こえた。
「頭丸めたんなら潔くそのまま改心しろ」
まあ確かに、ストーカー云々に潔さを発揮されるよりはお互い悪い結果にはならない。
とりあえず瀬戸の言葉に乗って改心をすすめると、けれども唸り出す香川に俺まで溜め息が出た。あとちょっとイラッとした。
「わかった?」
「……」
「わ、かっ、た、か?」
「……ハイ」
「よし、いいこ」
「……!」
途端にキラキラした目を向けた香川に、正直心から「面倒なヤツに好かれた」と確信した。そして隣から重い雰囲気が流れてきて、思わず苦笑する。
「瀬戸くん嫉妬しなーいの」
「……腹立つ」
「まあまあ。じゃ、香川、そういうことで」
「……ハイ」
とにかく帰ろう、と瀬戸を連れて香川に背を向けて歩き出すと、瀬戸が「いいのかよ」と不貞腐れたように言った。
「嘘なら地獄見せる」
「甘いんじゃね」
「疑い続けたら疲れる。無駄な悩みは抱えないタイプだから、何かあればその時考える」
納得出来ない、と顔に書いてある瀬戸を見て笑うと、瀬戸は訝しげに眉を寄せる。
「俺にはお前が居るし。頼りにしてる」
「……わかった」
「ありがと」
嫌な気持ちにさせてしまったから、その気持ちを取り除くのも俺のやるべきことである。
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