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05
 


 香川が言うには、あの文化祭中に気を失い、知らない所で目が覚めると鏡と向かい合っていた。
 映っていたのは椅子に縛り付けられた自分と慧先輩で、目を覚ました香川に気付いた先輩は、鏡越しで笑いながら躊躇いなくバリカンで香川の髪を散らした。
 そして綺麗な丸刈りにすると、「仕方ないよね?悪い子にはお仕置きをしないと分からないから」と言って唖然とする香川を家の前まで律儀に送り届け、去り際に「三回目をやったら、四回目は出来ないようにしてあげるね」と冗談のように笑って言ったらしい。


 暴力の喧嘩はするが、必要ない場合や意味のない場合、あの人は基本的に身体より精神を攻撃する事が多いらしい。というかそっちの方が好きだと言っていた。


 香川の話を聞いた瀬戸は、慧先輩を思い出しているのか苦笑いを浮かべた。



「あの人えげつねぇことするな…」
「先輩は何をしたら相手が精神的に一番辛いのか考えるタイプ。精神攻撃が好きらしい」
「敵に回したくねぇ……」



 ドン引きする瀬戸を横目に、話を聞いて理解納得したところで、ひとつ言いたいことが出来たので香川を呼び、顔をあげた丸刈りに笑顔を向けた。
 多分先輩と似たような笑みだろう。



「これは三回目ってことでOK?」
「……あっ」



 こいつバカだ、と瀬戸と気持ちがシンクロしたに違いない。
 本人にその自覚がなかったにしろ、会いに来る度に奇襲されたら身が持たないというか鬱陶しい。



「あんたドMなの? なにがしたいんだ」
「お、オレは、えと、」



 何故か照れ始めた香川に、やっぱマゾなのかと思わざるを得ない。
 まさかコイツ俺になにかすることで先輩からお仕置きを受ける流れにハマったんじゃないのか。お仕置きされたくて俺に奇襲かけるのか。可能性がゼロじゃない辺り凄く不快だ。



「先輩にお仕置きされたいから?」
「違います!もう二度と会いたくない!」



 そうです、とか言われても困るけど。呼ばねぇし言わねぇし、あの人留学云々で忙しいし。
 じゃあなんで、と聞くと、香川はしゃがみこんだまま挙動不審になり、小さく何かを言った。



「え、なに?」



 聞き取れなくて問うと、香川は少し沈黙した後、力強く言った。



「だ、だから、オレ…っ、姫ちゃんのストーカーになるの…!」
「……は?」



 


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あきゅろす。
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