02 夕飯の途中で考え込むとかどんだけ。 「どしたの」 「いや、べつに」 「ふーん」 「……」 「……」 そ、んなにじっとり見ないでいただきたい。 苦笑しながら何でもないと言うと、じと目のまま「そう」とだけ返ってくる。 ……気まずっ! なにこの空気。自業自得だけど。 夕飯時にテレビを点けないから、リビングは凄く静かだ。憎いくらい。 畜生、なんでテレビ点けないとか決めちゃったんだよ俺。 「諒、あんまり抱え込み過ぎないようにね」 「へ?」 目が白米に向いていたために、夏樹さんの声で顔を上げると、何でもないような表情で漬け物に箸を伸ばしてた。 言動に気が抜けますぜ夏樹さん。 てか、うん、べつに間違ってはない。抱え込むってことは。 でもなー。 「大丈夫。そんな重くないし」 「そっか」 深くは聞いてこないけど、気付いてるんだろうな。 にっかりと子供みたいな笑顔を見せる25歳独身の大人は、素直に可愛いと思う。 独身で居ることを不思議がられる夏樹さんは、いつもその手の話は笑って流してしまう。 相手はごろごろ居るのに、とお節介な話好きのおば様たちに言われても、ただ笑って「そんなことない」と返すだけ。 その理由を知っている俺は、それを見たり聞いたりする度に居た堪れない気持ちになる。 「重くなったら言うよ」 「おーけ、気楽に構えてる」 「何でだよ」 突っ込んだものの、深刻そうにされても困るからいいか。 気楽に、とか言いながらこの人は忘れないんだ。 溜め込むことはあまりしない。それが自分自身にどういう影響を与えるのか、この目で見て聞いてきたから。 相談でも愚痴でもいい、とにかく話をすることがいいのだと。本当に信頼している人に。 それだけで自分の中でも整理できるんだって。 確実ではない答えでも、一方的でもなく自分で答えを見つけられるような道標としての答えをくれる。計算式だけを与え、自分で解く。 そういう人が身近にいる俺は幸福者だなあ。 今はまだ、重くはない。 悩むことはいいんだよって、そう言って待っていてくれる人がいる。 だから俺は、こうして笑えるんだろうな。なんて。 [*][#] [戻る] |