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09
 

 ───浴衣のまま、ぼふん、とベッドに飛び込んで深く息をはいた。
 あれから花火を見終わって少し喋り、そろそろ解散しようかとなったのは午後9時頃で。駅前で幸丸と瀬戸と別れ、三人で他愛なく話しながら家の近くで別れ、電気の点いていない自宅へ帰ってきた。
 一人になった途端に静かで寂しい気持ちになるのは、さっきまでの賑やかさがすっぱり切り取られたからだ。
 誰だってあるさ。
 楽しい時間の後の静けさが寂しい、だなんて。


 ちなみに帰り道でゲーセン寄ってプリ撮りました。浴衣姿は貴重だからってことで。



 着替えねーとなー、とぼんやり考えながらも、ふと右手を眼前に持ってきて広げる。
 じんわりと、いまだに感覚を思い出す。
 仕方なかったのかどうかは置いといて、手を繋ぐ、という事に変わりはなかったわけで。

 掴まれた時の焦りと離れた時の寂しさは、今はもう思い出せない。
 ただそう思ったことは事実で、蒼司と手を繋いだ時もそうだったのかなーと考えてみるけど、いかんせんよく分からない。
 手を繋ぐ、よりも、抱き締められる方が多かった気がするし、何より「好き」だと言うような気持ちを伝える言葉が強かったもんだから、結局そこまで印象に残らなかったのかもしれない。


 あれは、なんだったんだろう。


 人の来ない隅で二人で並んで座っていた時の映像が過る。
 あれだけ近付いたのは、初めて屋上で会って胸ぐら掴まれた時くらいじゃないだろうか。
 鼻がくっつきそうな、お互いの息が交わるような、そんな距離で。


「……っ」


 間近で見た顔を思い出して、それを消すように枕に顔を埋めた。
 屋上での時は何も思わなかった。そりゃそうだけどさ、喧嘩売られたようなもんだったし。
 でも、今日は違う。
 あの空気は、雰囲気は、違う。


 吸い込まれそうな目から離せなくて、近づいてると分かっているのに動けなくて、心臓がやけにうるさくて、それでも思考回路は冷静で。



「なに、しようとしたんだ…」



 俺は。あいつは。
 あの時なにをしようとしたのか、本当は予想出来る。でも、それしかないわけじゃない可能性もある。
 わからない。
 あいつが、分からない。


 


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あきゅろす。
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