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想い人。‐01
 

 夏祭りから数日、もうすぐ夏休みも終わるなぁ、とカレンダーを見ながら余裕があるのは何もやることがない奴だけだ。

 今日も今日とて快晴でギラギラ太陽が肌を焼こうと躍起になってる。


 そんな俺は今、でかい屋敷にいる。
 屋敷っつても日本家屋だけどな。塀があって門があって。平屋のでかい家に、隣には道場がある、そんな家の持ち主である望月家にお邪魔してます。



「───おぉ、多貴坊と諒か、よく来たな」
「こんにちは。お邪魔してまーす」
「お邪魔してます。つか要さん、坊ヤメテくださいって!」
「ふははは、俺に一本でも取れたらやめてやるよ」


 出迎えた伊織に客間に通されてお茶を飲んでいたら、和服に身を包んだ長身で細身でありながらしっかりした体型の望月家当主、望月要(モチヅキ カナメ)さんが顔を出した。
 黒い短髪に整った顔立ちで、四十後半であるはずなのに三十代に見える若々しさだ。


 当主であり、合気道の師範である要さんは気さくで寛容。
 普段穏やかな雰囲気だけど、道場で師範を勤める時の雰囲気は厳しく容赦ない。


「どうだ多貴坊、腕試しに一本やるか」
「今日こそ取ってやりますよ!」


 にやりと笑う要さんに多貴が食って掛かり、戻ってきた伊織に呆れられた。













 扉を全開にして風が吹き抜けるなか、ギシギシと板張りの床が唸る。
 縁側に座って、対峙する二人を伊織と眺めながら貰った饅頭を一口。うま。


「ぅら…っ……ぐ…ッ!」


 多貴の呻き声を聞けるのはここくらいだろうな、とのんきに思う。
 だんっ、と床に打ち付けられた多貴は素早く起き上がるも、やっぱり痛かったのか背中を擦った。
 そこで要さんの笑い声。


「まだまだだなー、そんなんじゃウチの伊織はやれねぇぞー」


 要さんは多貴と伊織の関係を認めてる。それこそ葛藤もあったし、一度は拒絶されたけど。
 それでも、多貴の真剣さを受けて、今ではこうして今までと変わらず接してくれる。要さんは格好いい。


「くそっ、もう一本!」
「よし来い」

「二人熱いな」
「父さんってば…ぎっくり腰になればいいのに」
「…伊織さん?」


 そんなこと言ったら要さん泣くよ?




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