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08
 

「ごめんね、途中で離れちゃって」
「え、あ、…うん」


 本当に申し訳なさそうに言うもんだから、なんで離れたのかを聞く気になれなかった。
 幸丸の手にある袋の量から見ても、屋台回ってたんだって分かるし。


「食べ物調達したし、もうすぐ花火上がるからここで見よう」
「うん」


 そういえば、まともに屋台回らなかったしかき氷くらいしか食べてないや、と思い出すと途端に空腹感が現れる。
 なんでそうなったのかは考えないでいよう。というか考えたくない。
 そうやってまた逃げて、と心の中の自分が毒づいて、それでも今を楽しみたいんだと言い聞かせて目をそらした。


 賑わいから少し抜けた大木の脇には、木枠に囲まれた祠がある。その周りには大木に比べて小さい木々と提灯はあるが人はいない。
 祭りの中心から抜けて石段を数段登ったそこは、背後は木と祠だけど前は木枠だけで視界が開けていて神社と屋台が見える。
 花火は神社の向こう側で上がるから、ここは見晴らしも良く花火が見れる場所だ。
 毎年祭りに来てるうちに俺と幼馴染みで見つけた。
 祠に向かって、場所を借ります、となんとなく手を合わせるのも当たり前になるくらい、花火の時はここに来る。


「こんなとこあったんすねー」


 大木を見上げながら幸丸が呟く。
 以前見つけたんだよ、と伊織がそれに答える。

 ベンチはないが小さな岩がいくつかあるから、そこに腰かけて花火を眺めることにした。
 三人が買ってきた屋台の食べ物を分けながら話していると、一際大きな太鼓の音の後で夜空に花が咲く。

 鼓膜を揺らすほどに低い音と、鮮やかな色が視界いっぱいに広がって箸が止まる。

 やっぱいつ見ても花火は綺麗だ。


「花火大会じゃなくて夏祭りで花火ってのも珍しいっすよねー」
「その分、花火自体は短いけどねー」
「花火じゃなくて夏祭り中心だからね」
「幸丸ここの夏祭り来たことねぇの?」
「何回か来たんすけど、花火前に帰っちゃうんすよ。…こうやってじっくり見るのも良いっすねー」
「つーかお前彼女はどうした」


 瀬戸の突っ込みに、そういえば彼女いたんじゃんと今更思い出した。
 幸丸は、用事があるから行けないと言われた、と苦笑いだったけど。





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