07
「行くぞ」
「へ?」
頭の上の手が離れ目を開くと、立っている瀬戸が振り返りながら言った。
どこに、と聞く事を忘れて立ち上がる。
それを見た瀬戸は下駄を鳴らしながら歩き出して、慌てて後を追う。
人混みに入り、見失わないようについていくけど目的地が分からなくて。向かってくる人波に、転ばないようについて行くので精一杯だ。
ふと、瀬戸が立ち止まって振り返った。
なんだと思うより先に、右手が引っ張られて前のめりになる。
手を見れば、瀬戸に捕まれていて。
え、と声を出すもそのまま歩き出されてしまった。
歩きながら、人混みで押されて間近にある背中にくっつきそうになる。
右手が熱い。そこに意識が持っていかれて人目とか気にする余裕もないけど、近すぎて手を取られているのは見えないかもしれない。
とにかく暑かった。
熱気もそうだけど、顔も手も熱くて手汗が気になる。離そうとしても力が込められて離せないし、はぐれたら困るし心臓がうるさいしで、俺はもうキャパオーバーだ。
歩き続けて少し、屋台の並びから外れると急に風が吹き抜けて空間が出来たことに気づく。
同時にするりと離れていった手に、思わず目が行く。
……俺は、いま、なにを思ったんだ。
風が当たる手のひらを見て、意味無く握ったり離したりしながら首をかしげた。
「諒!」
耳に届いた聞き慣れた声に、ばっと顔を上げれば、少し驚いたような顔をした伊織が小走りで向かってきた。
危ないな、となぜか冷静になっていて。
目の前に来た伊織は、なんだか俺の全身を眺めてから顔を見て。
「顔が赤いよ?」
「、え?」
頬に触れた伊織の手は、少し冷たかった。その冷たさが心地好くてそのままにする。
「暑かった、から…?」
「なんで疑問系なの」
いや、俺もよく分からないんだけど、と思いながらも伊織から目をそらした。
後ろには何故か多貴に詰め寄られてる瀬戸と、両手いっぱいに袋を持った幸丸がいて、周りにはあまり人がいない。
中心から少し離れただけでこんなに静かになるもんなんだな、と何となく思った。
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