03 「見ない顔だな、お前」 「ちょ、もう!お客さんですよ」 「この人いつもだろ」 綺麗なグレーの髪の人と目が合う。 銜え煙草が、かっこよさを更に引き立ててるようで。 「えと、とりあえず、こちらにどうぞ」 控えめにカウンターに促す比較的小柄な人の声に、我に帰った。 恐る恐る席に座るとお茶を出してくれて、お礼を一言、ひとくち飲む。 「高校生ですか?」 「……ぁ、はい」 「珍しいな」 お茶特有の苦味のおかげで、幾分気持ちが落ち着いてきた時に。 「───じゃあ、また来るよ。ごちそうさん」 「あ、はい。ありがとうございます」 奥の席で見たおじいさんが愛想よく帰って、客は俺一人に。 どうすっかな。 とりあえず、ずっと鼻につく甘い香りが気になる。 「あの、」 「はい?」 小さな声だったはずなのに、向かい立つ小柄な従業員ははっきりと聞こえたらしくて、すぐに返してくれて。 「───この、甘いにおいって、なんですか?」 きょとん。 言った後に、そんな感じの顔をした目の前の従業員と目が合う。 なんか、すっげぇ恥ずかしい。 「……まさか、甘い香りに誘われて、とかじゃねェよな…?」 「えーと、そのまさかです」 いきなり喋り出した店長っぽい人の驚いた顔も美形で、俺はそこにびっくりした。 しん、と静かになる店内。いや音楽は流れてるけど。 けど。人の会話がないだけでこんなに静かになるなんて。 そんな事を再認識して、気まずくてお茶の入ったコップを見てたけど、気になって視線だけを上げて様子を見たら。 「……」 「……」 「……」 「……」 悩んでた。 なぜかめちゃくちゃ悩んでる。 三人して、見事に視線がバラバラに上を向いてた。 困った。困った困った。 「……ぁの、」 「甘いモン、ねェ」 ……こんな気まずさで搾り出した言葉と勇気を返せ。 なんて言えずに店長らしき人に視線を向ければ。 白い煙りを吐き出して、口端をあげるその姿が絵になるっつーか見惚れる。 「敏感なんですねぇ」 「出しちゃえばいいんじゃないっスか」 意味も掴めない会話をしてる三人。 わけわかんねぇ。ますます混乱すんだけど。 [*][#] [戻る] |