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06
 

 え、あ、う…、と言葉にならない声が出て挙動不審になる。なにがなんだか分からない。
 それでも携帯は振動で主張していて、電話だと気付き取り出した。


「は、はい…っ」
『もしもし、諒、今どこにいるの?』


 相手を確認しないまま出たけど相手は伊織で、どこにいるのか聞かれて周囲に目をやった。


「えと、あ、屋台…が、」
『諒?どうしたの』


 上手く伝えられなくて言葉が出なくて、場所は分かるのにそれが言えない。
 頭の中がバタバタしてる。
 いつもより低い声で問われた、どうしたの、という言葉に、ただの単語ばかりの声すら止まった。

 どうしたの。…どう?なにが、いま。
 俺は今なにしてた?

 無意識に目を向けたのは、隣にいる瀬戸だった。
 真っ正面を向いてるから横顔だけど、口元に手をやっていて。少し、その顔が赤くなってるように見えた。
 視線に気付いたのかこっちを向いた瀬戸と目があって。薄く開いていた口が閉じる。

 いま、さっき、間近で見た、顔。
 至近距離で見た顔が脳裏に現れて。
 その瞬間にさっきの出来事の延長線を思い浮かべてしまった。
 もし、もし携帯が鳴らなかったら…?


「…っ!、…あ、う、」
『諒?』


 伊織の声が遠い。聞こえてるのに返せない。目の前に集中し過ぎて、同時に急に顔が熱を持って、けど目が反らせなくて。また、双眼が貫いてくる。
 不意に、瀬戸が手を伸ばしてきた。手のひらを上にして差し出される。
 意味がわからなくて、その手と顔を交互に見ていると、小さく一言「貸せ」とだけ聞こえてきて。

 それが携帯の事だと理解するのに十秒くらいかかって、やっと携帯を瀬戸に渡した。


「…もしもし、───ああ?別になにも。…うるせぇ。……いや動いてねぇよ、派手なかき氷屋んとこ。…ハイハイ、じゃあな」


 眉間にシワを寄せて喋りながら、それでも目を合わせたままで。どうしていいか分からなくて、何も言えなくて、通話を終わらせた携帯が戻ってきて初めてそこで視線が反れる。

 隣で立ち上がる気配がして顔をあげたら、頭に手が置かれて思わず目を閉じた。


「……悪い、きにすんな」


 ぽんぽん、と緩く叩かれながら言われて、俺はそれに頷くしかなかった。





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