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中編
02
 


 覚悟はしていた。つもりだった。






「───あのさ…俺、宇佐ちゃんの事本気で好きみたい…」
「マジか」


 学校から帰宅後の夜、勝手に持ち込んで俺の部屋に置き去りにしている私物のクッションを抱え、神妙な面持ちで見上げてくる幼馴染みの顔をデスクチェアから眺めた。

 高校に入ってから散々女と遊んでいた幼馴染みの亀山春彦に、高二の終わりで遅咲きの春が訪れたようだ。

 しかしあれだけ悩んでおきながら恋を自覚していなかった事には驚いた。
 交際はないのにセックスはする、恋という感情が分からない。そういう人間は少なからず居るのでそこに驚きはなかったが、あれだけ遊んでいた数多の女関係を放ってまで放課後に相手のいる巣へ一直線だったくせに今まで自覚がなかったとは。
 いや、自覚をしたのだから良いのだ。
 好きだと思える相手に出会えたのは良い。恋愛感情を知ったという事実さえあれば、例え叶わなくとも幼馴染みはこれからその気持ちを次へ繋げることが出来る。

 問題はその相手が同学年で違うクラスの宇佐見裕弥という男子生徒であることだ。
 好きになったのは何ヵ月か前らしいが、相手が同性だから誰にも相談出来なかったとカメは言う。まあ普通はそうだろうな。

 しかし初っぱなからハードル高過ぎるだろ。
 初恋は実らないとはよく言ったものだけど、男女だったらまあ実る可能性は案外あるもんだ。高校生だしな。しかし相手は同性。偏見が無いとは言えない。
 素直に初恋をめでたいとは思っている。
 だが敢え無く散っていく様が目に浮かぶくらいに異性相手から同性への、しかも初恋が叶う確率はゼロに近い。

 ───なんで俺じゃないのか、という一瞬抱いた嫉妬はこの際もう放り投げるとして。
 本気で好きだと言うカメに色々な現実を突きつける気は無いので、背凭れに寄り掛かって「まあ、頑張れよ」と言うしかなかった。


「初恋成就の御守りでも作ってやるよ」
「あ…、そっか、俺初恋だったんだ」


 今気付いたのかよ。


「ったく……、とりあえず夕飯食ってくだろ?準備してるっぽいし」
「うん、いただきまーす」


 相手はあれだが最近は夜遊びも無くなったみたいだし、無意識な好意でやる気も無いのだろう。良いことだな。

 緊張感から解放されたのか、クッションを抱えたままベッドにダイブした初な男の様子に溜め息を吐き出した。


 恋愛する年齢が下がっている又は恋愛をしない人が多い現代で、女遊びしていた高二の初恋はなかなか珍しい。
 まあ俺もカメをとやかく言える立場ではないけど。
 そのまま寝そうだったカメを蹴りつけて、初恋で戸惑い浮かれる変化の激しい表情を横目に良いにおいのするリビングへ足を向けた。


 


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あきゅろす。
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