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中編
23
 



 隣で仰け反っていた久住さんは膝に腕を掛けて前屈みにこちらを見ていて、とても喋り辛い。



「……で、その理由って?」
『なんかオレと平塚がデキてんじゃないかって』
「───…は?」



 思わず出た声は、本当に訳が分からないと伝わったのか『やっぱそうなるよな』という彼の声が聞こえる。

 なぜそうなったのかと問うも、彼自身よく分からないようで。



『オレら小学校から一緒じゃん?』
「うん」
『南は高校で知り合ったわけで、ぶっちゃけ平塚の方がオレのこと分かってんじゃん』
「……まあ、」



 それは俺が彼を恋愛感情で好きだから、とは思っていないだろう。
 純粋に関わってきた時間で、幼馴染みと言える関係だからこそ彼は自分の恋人よりも俺の方が自分を分かっていると思った。
 なにもおかしくない、はずだ。



『この夏休み中さ、どっかで平塚と遊ぼうと思ってて色々考えてたわけ』
「……え、二人で?」
『うん。昔よく遊んだじゃん。久しぶりに遊びたくなったから考えてたら、あいつ何を勘違いしたのかわかんねーけど、他に好きな人が出来たとか浮気してるって思ったらしくて』
「でも俺の名前出したんでしょ」
『そう。言ったんだけど、急に高校の頃から二人の距離が近いと思ってたんだとか言い始めて』



 その言葉に一瞬だけ息が詰まってしまったが、止まりそうもない彼の言葉に耳を傾ける。
 もしかしたら彼の高い声が久住さんにも聞こえているかもしれないと、目線だけ横に向けると隣人はまだこちらを見ていて咄嗟にまたそらしてしまった。



『───でさ、平塚は俺らの恋愛相談乗ってくれたし南との間取り持ってくれただろって言ったら、でも私より平塚と居る方が楽しそうだってさ。 ダチといて楽しくねーわけないし、ダチと彼女じゃ違うじゃん。しかも世話になったのに平塚の事悪く言うから流石にキレて別れたわ』
「……それってつまり俺のせいで別れたって事じゃない?」



 当たらずも遠からずな彼女の想像力には驚かされるが、まさか自分と遊びに行く話で別れる事になるとは思わなかった。
 当時彼女が俺に恋愛相談を持ち掛けたのは、俺と彼との関係を疑っていたからなのだろうかと考える。



『いや平塚のせいじゃないから。俺は友達も彼女も大事だったわけだし、あいつは嫉妬深い所も確かにあったけどさ、なんか平塚との話だけは妙に決め付けてて』
「……ただの友達だって言っても聞かないんだ」
『聞かなかったな。友達だって言うなら、連絡も遊ぶのも私が一緒に居るときにしてって言うし、意味わかんねーじゃん』
「……俺から言おうか?」
『いや、もういいよ。ずっとお前のこと悪く見てたって知ったら冷めた。でもあいつからなんか連絡来てるかもしれないって思ってさ、しつこく電話してごめんな』



 どうしても話がしたかった理由が分かり、申し訳なさそうな声に「事情は分かったから大丈夫」と返したら安心したようだった。
 彼の別れ話はそこで終わったのか、今どこに居るのか問われて少し悩む。



「遠いところかな」
『いやどこだよ…いつ帰ってくんの?』
「まあ、近いうちに」
『相変わらず教えてくんねーなぁ』
「戻ったら連絡入れるから」
『分かった。夏休み終わる前に会って話聞かせてよ』
「話すことがあればね」



 なんだそれ、と笑う高い声に何故かもう切りたくなってしまった。
 また連絡すると言おうと口を開いた時、久住さんが上体を起こしたのが視界の端に映り流れるように目を向けて、息を止めた。



 


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あきゅろす。
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