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中編
◇そこから出てきたのは、本能。
 


「───迫ったあ!?」
「うっさいバカ」



 佐東の声にこっちを見る視線が増加したが、佐東がヘコヘコするとまた各々の会話に戻っていった。
 ふたつの同窓会の翌日、佐東から呼び出しを食らい、最寄り駅前の喫茶店に居るわけだが。


 昨日のトイレでの奇行について、俺は当日には話さなかった。
 自分でやらかしておいて混乱していたのだ。アホな話ではあるけれど。

 そのうち、そのうち、と流しているうちに同窓会は解散し、よろしく出来上がっていた佐東をタクシーに押し込み帰した。
 それで翌日の呼び出しというわけだが。



「お前、ゲイなんじゃないかとか疑われてるぞ絶対」
「……」



 大雑把に話をした後の言葉が冒頭と、次にこれだ。
 まあ確かに、いきなりあんな行動を取れば普通はそう思うだろう。



「顔真っ赤だった」
「…は?酔ってたんじゃなくて?」
「素面と変わらなかった。酒臭くなかったし」
「ポジティブ…」
「うるせえ」



 お前と一緒にするな。
 そう言うと佐東は「俺は楽観主義者なの」と真面目くさった顔で返してきたので、とりあえず足を蹴った。



「暴力反対。…で、その後は?」
「その後?」
「だから、連絡したのかって」
「してない」
「……はぁ…」



 頭を抱えて溜め息を吐かれた。
 大袈裟なヤツだな、と思ったが口には出さなかった。
 自分でも、弁解というか説明するべきだとは思う。だが如何せんどう言えば良いのか分からず、気付いたら朝だったのだ。
 また後日と言い逃げしたわけだが、あれでは不信感を抱かれただけだろう。



「この休み中に連絡してやれよ。向こうも休みなんだろ?」
「……まあ、たぶん」



 会社が休みでも予定が入ってるかもしれないが。……大友とか。
 そこまで言うと佐東は更に深い溜め息を吐き、呆れたように唸った。失礼な。



「お前ってそんなヘタレだったか?」
「時間は人を変えるんだよ」
「偉そうに言ってんじゃねーよ。略奪してこい」
「りゃくだつ…」



 そりゃ暴力だろうが。お前さっき暴力反対とか言ってたくせに他人には略奪推薦してどうする。

 俺もそうだが、佐東も、大友と須藤が親しい事に気付いていたようで。しかしあの短時間でどうのこうのと憶測した所で、本当のことなど分かるわけはない。

 もしかしたら、恋人同士だったりしないのか、と浅ましい事すらも考えた。


 と、佐東が思い出したように短く声を出した。



「お前、須藤が好きなの?」
「ぶっ」
「あぁ、やっと自覚した感じね」
「おい、なんだそれ」



 まるでずっと前から気付いてた、みたいな言い方をする佐東を睨み付けると、おどけたように肩を竦ませた。



「気付いてなかったらしい親友に特別に教えてあげよう」
「悪友の間違いだろ」
「本来の意味で使わないで!親しみ込めてよ」
「……で?」



 幸ちゃんってば〜、と昔の呼び方をする佐東を再び蹴りつけて促すと、奴はにやにやしながら思わせ振りに悩みだす。
 腹が立ったので、恋人にお前が浮気しているとホラ吹くぞ、と脅すと佐東は慌てて言った。

 しかしそれは話というほどのものではなく、会話の一片くらいのものだった。けれどそれは、とんでもない衝撃を俺に与える。



「お前、中学入ってからずっと須藤のこと見てたし、その間も好きだっただろ」



 それは、第三者からでしか分からないような、自分の本能のような気がした。



 俺はそこで、驚くほど鮮明に中学時代の須藤の姿を思い出すことができたせいで、佐東の言葉を馬鹿にすることが出来ずにただ愉快そうに笑う目を見ていた。


 

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