中編
04
最近バイト中に大学生くらいの常連さんが話し掛けてくれるようになった。
初めは以前勧めた花粉症の薬がよく効いたというお礼だったけど、それからちょいちょい挨拶だったり「お疲れさま」と一声掛けてくれる。
やっぱり花粉症だからか鼻声気味なんだけど、その声が若干リョウさんに似ていてたまにドキリとする。
でもまあ、声が似ている人は結構いるもんだから良い声だなと思うくらいだ。
「───花粉早く減ってほしいね」
「本当そう思います」
常連さんは今日スーツだった。
大学生だと思っていたけど…いや就活なのかな、と適当な事を考えながらもレジに商品を通していく。
「あ、あと28番、」
「ふたつですか?」
「そう、覚えちゃった?」
「高頻度で当たるんで」
「確かに」
「、っ」
それはちょっとした引っ掛かりだった。
今まで他人行儀だった言い方や声が、「確かに」と笑ったその瞬間本当に錯覚するくらいに重なった。
「どうかした?」
「すみませんクシャミ我慢しました。〇〇円です」
「ふ、ははっ面白いね」
咄嗟についた嘘は常連さんにウケたらしい。お釣りを渡して見送り、次のお客さんに対応しながらチラと目線を向けると、袋詰めした後にカゴを戻す常連さんがこちらを振り返り、目があった。
ひらりと手を振ったその人に慌てて会釈を返し、焦る心中に向けて仕事だと自制する。
リョウさんに似ていたからなんだっていうんだ。学校にも職場にもお客さんでも似ている人はいるし、だからと言って動揺する事でもない。
───…俺はなんで動揺したんだ?
「羽田、マスク取れたねー」
「おかげざまで」
謎の混乱からしばらく、夏が近付くと同時に花粉も落ち着いてきた。
カメは相変わらず放課後には理科準備室に行っているようで、時間が近付くにつれてそわそわする背中も良く見られる。
その度に俺は勝手に息苦しくなった。
相変わらずリョウさんとゲームしながらボイチャで世間話を交わし、バイト中は常連さんとの会話が増えた。
あの人は最近スーツでいる事が多い。
忙しいのか疲労感も伺えて、昨日は栄養剤だかドリンク系だかのお勧めを聞かれた。
鼻声が治ってくるとたまに聞く笑い声が益々リョウさんに似ていて、ゲームの中で聞く声より高めの音がやけに耳に残っている。
「夏休みさー、夜通しゲームとかしない?」
「課題終わらせたらな」
「オニ!」
「いつも最後にやってるお前が悪い」
おにぎり片手にぶーだれるカメに対して呆れた溜め息を吐き出すと、遊びたい盛りだ何だと文句を言いながらも「ガンバリマス」と説得力のない片言な声に少し笑った。
中間テストの勉強も何だかんだ飲み込んで結果を出したのだから、やりゃ出来るクセになと分け目の間から見える額に向けて指を弾いた。
[*←][→#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!