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中編
諦める為の理由が欲しい。‐01
 


「───お前ら、夏休みだからって浮かれんじゃねーぞ」
「センセー自分が仕事ばっかりだからって八つ当たりはダメだよ」
「はっ、当たり前だろ。精々学生を楽しむんだなクソガキ共」
「開き直った…」


 夏休み前日のHRは専ら担任である高阪の愚痴で埋まった。
 課題をどっさり寄越した教師たちは、口には出さずとも高阪と同じ事を思っているんだろうな、と頬杖をついて横向きになってカメと高阪のじゃれあいを眺めた。

 浮かれんなとか言いながらも学生を楽しめだとか、八つ当たりなのか教訓なのか。まあ九割前者だろう。


 夏休みの初めに課題を終わらせたい(そしてゲームしたい)からバイトを減らして、後半は普段より多くシフトに入るという予定をこの間店長と話し合った。
 去年もそうだったからすんなり話は終わっているものの、夏休み後半まではバイトが週一になるから常連さんと会わなくなるな、と去年は考えなかった事が浮かんで首を捻る。

 ……会いたいのか?
 いや別に。去年だって同じだったし、最近喋るようになったからそう思うだけだろうな。

 そんな事を自問自答して、チャイムと同時に騒がしくなった教室でカメが楽し気に聞いてきた。


「今日バイト?」
「暫く週一」
「泊まりに行って良い?」
「課題持ってこい」
「うっ……、らじゃー」


 どんだけ嫌なんだよ。
 聞いてきた時の目の輝きは一瞬で失せて、カメは机に伏せながら力なく言った。

 …泊まりか。ゲーム出来ねーかな、いや出来るけど、リョウさんと深く話せない。

 つってもそう何日も泊まるわけじゃないし、去年は一日泊まって他所に遊び行ったりしてたから良いか。
 そこてふと浮かんだ疑問をカメに投げた。


「宇佐見とは遊ばねーの」
「宇佐ちゃん? ……そういや連絡先知らないや」
「……」


 こいつほぼ毎日ウサギの巣に行ってて連絡先交換のひとつもしてないのか。
 社交的だからいつもはすぐ交換してんのに、宇佐見にはそうしなかった。忘れていたのか意識していなかったのか、またひとつ他との違いを見つけてしまって勝手に気分が落ちる。

 課題で重くなった鞄を机に置くとカメも立ち上がって「鞄重すぎ」と愚痴を吐いた。先に教室から出る時、カメはクラスの連中と挨拶を交わしつつも遊びの約束なんかもしていて、人気者は違うな、だなんて偏屈そうな事を考えた。


「羽田くん待ってくださーい!」
「うっせえ騒ぐな」


 さっさと下駄箱まで行くと後ろから情けない声と喧しい足音が聞こえてきて、変に注目された腹いせに隣に来たカメにチョップを食らわせた。
 暴力反対!と喚くも笑っている幼馴染みが変態くさい。

 そんな男に片想いしている自分が一番変態くさい。くそが。


 

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